第31話 静かな締め出し
変化は、朝から始まっていた。
いつも届くはずの素材箱が、来ない。
昼を過ぎても、音沙汰がない。
「……確認します」
ミレアが外に出て、しばらくして戻ってきた。
「遅延、だそうです」
声は落ち着いているが、内容は重い。
「原因は?」
「輸送の都合。倉庫の整理。優先順位の問題」
どれも、嘘ではない。
だが、真実でもない。
「要するに」
カイルは、炉の火を見つめたまま言う。
「後回しですね」
「はい」
その日の午後、別の素材商にも当たる。
返ってくる答えは、ほとんど同じだった。
「在庫が不安定でして」
「今は大口が優先で」
「次の便は、未定です」
誰も敵意は見せない。
誰も断言もしない。
ただ、“選ばれなくなった”だけだ。
「価格も、上がっています」
ミレアが帳面を差し出す。
数字は、静かに跳ね上がっている。
「市場価格です」
強調するように、そう付け加えた。
工房の稼働は、目に見えて落ちた。
受けられる依頼が減る。
納期が延びる。
噂も、少しずつ形を変える。
「最近、あそこ遅いらしい」
「商会と揉めたとか」
致命傷ではない。
だが、確実に効く。
夕方。
一人の冒険者が、工房の前で足を止めた。
装備は傷んでいる。
急ぎのはずだ。
「……今日は、無理ですか」
申し訳なさそうに聞いてくる。
「素材が足りません」
カイルは、正直に答えた。
「そうですか」
冒険者は、頷いて去っていく。
背中を見送りながら、ミレアが言う。
「焦らせに来ています」
「ええ」
カイルは、否定しない。
「屈すれば、元に戻る」
資材も。
依頼も。
市場の空気も。
だが、それは“選ばされる”ということだ。
「……耐えられますか」
ミレアの問いは、現実的だった。
「耐えます」
カイルは、即答する。
「ここで折れたら、
この先は全部、値段で決まる」
夜。
工房の灯りは、いつもより早く落ちた。
仕事がないからではない。
無駄に消耗しないためだ。
静かな締め出しは、
怒鳴らない。
殴らない。
ただ、選択肢を一つずつ消していく。
それでも。
消えないものが、まだ一つある。
――信用だ。
それが残っている限り、
この工房は、まだ終わらない。
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