第30話 断るという選択
返事は、書面で出した。
余計な言葉は添えない。
条件の列挙もしない。
『独占契約の提案は、お断りします』
それだけだった。
数日後、返答はすぐに来た。
予想通り、丁寧で、冷たい。
「感情的ではないですね」
ミレアが、返書を読み終えて言う。
「彼らは、怒らない」
カイルは、炉の火を見ながら答えた。
「怒る必要がないからです」
拒否は、想定内。
問題は、その後。
翌週から、変化ははっきりと現れた。
注文していた素材が届かない。
理由は、どれも同じ。
「流通が滞っていまして」
誰も嘘はついていない。
だが、誰も助けない。
「……始まりましたね」
ミレアが、帳面に線を引く。
「静かな締め出しです」
依頼も、少しずつ減る。
工房の前を通る冒険者が、立ち止まらなくなった。
「噂が回っています」
ミレアは言う。
「“商会と揉めた職人”」
致命的な悪評ではない。
だが、選ばれなくなる。
カイルは、作業台に手を置いた。
「それでも、断ってよかった」
迷いはなかった。
「もし受けていたら」
彼は、言葉を探す。
「今頃、工程の半分は他人のものです」
ミレアは、静かに頷いた。
「守ったんですね」
「はい」
何を、とは言わなかった。
守った結果、失うものは多い。
だが、戻らないものは少ない。
夕方。
一人の冒険者が、工房の前で足を止めた。
「……ここ、まだやってますか」
小さな声。
「はい」
カイルは答える。
「紹介は、ありますか」
「あります」
男は、名を出した。
以前、助けた依頼主だった。
門は、完全には閉じていない。
量は減る。
速度も落ちる。
それでも、信用の回路は切れない。
カイルは、炉に薪を足す。
断るという選択は、
負けではない。
これは、
次に進むための位置取りだ。
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