第28話 囲い込まれた技術者たち
市場の変化は、急ではなかった。
だが、確実だった。
いつも使っていた素材商からの連絡が途絶え、
代わりに「在庫が不安定だ」という言葉が増える。
「……来ましたね」
ミレアが、帳面に小さく印を付ける。
「ええ」
カイルは、淡々と答えた。
だが、致命的ではない。
まだ、だ。
数日後。
ロッドが、久しぶりに工房を訪れた。
「……知り合いが、商会に入った」
開口一番、そう言う。
「職人だ」
カイルは、手を止める。
「囲われたんですね」
「表向きは、な」
ロッドは、苦笑した。
話は、思ったより重かった。
その職人は、腕が良かった。
だが、資材不足と価格競争に耐えられず、
商会の提示を受けた。
「工房は残った」
「だが?」
「作るものは、決められる」
納期。
数量。
工程の簡略化。
「楽になったって、最初は言ってた」
ロッドは、視線を逸らす。
「でも、最近は違う」
装備は売れている。
金も入る。
だが。
「自分の名前じゃ、呼ばれなくなった」
“商会製”として扱われる。
「文句を言うと?」
「次の仕事が、後回しになる」
それ以上は、言わなかった。
カイルは、静かに頷く。
「……自由が、値段になったんですね」
その夜。
ミレアが、別の報告を持ってくる。
「囲われた工房が、三つ」
「もう、そんなに」
「表向きは、成功例です」
拡張。
弟子。
安定収入。
だが、共通点があった。
「核心工程に、触れていない」
ミレアは言う。
「触れさせてもらえない。
商会が管理しています」
技術は、分解され、管理され、
誰のものでもなくなる。
「……失われますね」
「はい」
時間をかけて。
カイルは、作業台に手を置く。
「私は、ああなりたくない」
「分かっています」
ミレアは、即答した。
「だから、守る」
小さな工房。
少ない仕事。
だが、ここには
“自分で決められる工程”がある。
翌日。
工房の前に、見慣れない若い職人が立っていた。
「……弟子入り、ではありません」
おずおずと、そう切り出す。
「少しだけ、話を聞いてほしくて」
商会に囲われた工房から、
逃げるように出てきた顔だった。
カイルは、扉を開ける。
「話だけなら」
囲い込まれた技術者たちの存在が、
経済の戦場を、よりはっきりと示していた。
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