第27話 独占という提案
翌週、再び馬車が路地に入ってきた。
今度は一台ではない。
護衛付きの、商会仕様。
「……露骨になってきましたね」
ミレアが、窓の外を一瞥する。
「ええ」
カイルは、作業を止めない。
扉が叩かれ、入ってきたのはグランツだけだった。
だが、その背後に“数”があるのは、嫌でも分かる。
「今日は、具体的な話だ」
開口一番、そう切り出す。
机の上に置かれたのは、前回より分厚い契約書。
「独占契約だ」
言葉に、濁りはない。
「資材供給は、商会が全面保証」
「工房の拡張費用も出す」
「弟子を取るなら、人材も手配する」
条件だけ見れば、破格だった。
「見返りは?」
カイルが尋ねる。
グランツは、迷いなく答える。
「優先使用権」
「市場に流す装備は、すべて我々を通す」
独占だ。
「技術そのものを売れとは言わない」
そう付け加える。
「だが、“使う順番”はこちらで決める」
ミレアが、即座に口を開いた。
「現場より、市場を優先するということですね」
「当然だ」
グランツは、悪びれない。
「商売とは、そういうものだ」
カイルは、契約書を一枚ずつめくる。
条文は、よく練られている。
抜け道はない。
「……一つ、質問があります」
「何だね」
「もし、私が断ったら?」
グランツは、少しだけ間を置いた。
「その場合」
柔らかな声のまま言う。
「資材の流通は、難しくなるだろう」
脅しではない。
事実の提示だ。
「君の工房は、小さい」
「市場から外れれば、長くは持たない」
ミレアの視線が、鋭くなる。
「それは、独占ではなく封鎖です」
「経済だ」
グランツは、言い切った。
カイルは、契約書を閉じる。
「……時間をください」
「三日」
即答だった。
「それ以上は、待てない」
立ち上がり、扉へ向かう。
「賢い選択を」
馬車が去ると、工房は静まり返った。
「どうします?」
ミレアが問う。
「……断ります」
即答だった。
「理由は?」
「技術を、順番待ちの商品にしたくない」
ミレアは、頷いた。
「では、次に来るのは」
「締め出しですね」
火を見つめながら、カイルは言う。
経済は、感情を挟まない。
だが、遠慮もしない。
三日後。
市場は、静かに動き始める。
工房の外から、
“当たり前だったもの”が、
一つずつ消えていく予感がしていた。
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