第26話 値段を付ける者たち
馬車は、以前よりも静かに止まった。
路地の奥に似つかわしくないその車体を見て、カイルは作業の手を止める。
「……また、来ましたね」
工房の前に立っていたのは、グランツだった。
前回よりも柔らかな笑み。
だが、距離の詰め方が違う。
「失礼するよ」
断りもなく中に入る。
「今日は、依頼ではない」
「前も、そうでした」
カイルは、淡々と返す。
グランツは苦笑し、周囲を見回した。
「相変わらず、小さいな」
「必要十分です」
「それが、問題だ」
椅子に腰掛け、指を組む。
「君の技術は、もう“個人の工房”で扱う段階を過ぎている」
言い切りだった。
「国家が採用しなかった」
カイルの視線が、一瞬だけ動く。
「だが、それは“価値がない”という意味じゃない」
グランツは、そこを逃さない。
「扱えなかっただけだ」
ミレアが、一歩前に出る。
「国家が使えないものを、商会が使えると?」
「使える」
即答だった。
「正確には、“売れる形”にできる」
机の上に、書類を置く。
「君の技術を、工程ごとに分ける」
「再現できる部分だけを切り出す」
「価格を付け、市場に流す」
それは、合理的だった。
そして、危険だった。
「……値段は?」
カイルが尋ねる。
グランツは、少しだけ笑った。
「安くはない」
金額を告げる。
普通の工房なら、即座に首を縦に振る額。
「悪くない条件だと思うが?」
カイルは、しばらく黙っていた。
作れる。
売れる。
広がる。
だが。
「それは、私の技術じゃありません」
グランツの眉が、わずかに動く。
「再現できる部分だけを切り出した時点で、
別物になります」
「市場は、そこまで気にしない」
「私は、気にします」
静かな否定だった。
ミレアが、はっきりと言う。
「技術を分解した瞬間、守れなくなる」
グランツは、肩をすくめた。
「守らなければ、奪われる」
「奪わせなければいい」
カイルの言葉に、グランツは目を細める。
「……強気だな」
「選んでいるだけです」
グランツは、立ち上がる。
「今日は、ここまでにしよう」
扉の前で、振り返る。
「だが、覚えておいてくれ」
一拍。
「技術に値段が付いた時点で、
放っておいても、誰かが買いに来る」
馬車が去り、静けさが戻る。
ミレアが、低く言った。
「来ましたね。経済の顔をした敵が」
「ええ」
カイルは、火を入れ直す。
国家は、使えないと判断した。
商会は、売れると判断した。
どちらも、間違ってはいない。
だが。
値段を付ける者たちに、
工程の重さは、見えない。
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