第23話 使われない工程
北部補給拠点での対応から、数日が経った。
工房には、いつも通りの静けさが戻っている。
だが、空気は少しだけ張り詰めていた。
ミレアが持ち込んだ報告書の写しが、作業台の端に置かれている。
「“暫定対応として一定の成果あり”」
彼女は、淡々と読み上げた。
「同時に、“長期運用には不向き”とも」
「想定通りですね」
カイルは、工具を磨きながら答える。
報告書には、書かれていないことが多すぎる。
工程の途中で止めた理由。
あえて調整しなかった部分。
それらは、数値にも文章にもならない。
同じ頃。
国家技術局では、再度の検証が行われていた。
「今回の修復は、確かに機能した」
補助官の一人が言う。
「だが、効率が悪い。
通常の規格装備と比べ、対応時間が長すぎます」
「再現性も、限定的だ」
別の補助官が続ける。
「記録された工程では、限界があります」
エルザは、黙って報告を聞いていた。
視線は、あの剣の図面に向けられている。
「……核心部分が、使われていない」
誰かが、ぽつりと呟いた。
エルザは、その言葉を拾い上げた。
「ええ」
静かに頷く。
「意図的に」
「なぜ?」
問いは、自然だった。
「使えば、結果は良くなるはずです」
エルザは、しばらく沈黙してから答える。
「使えば、国家はそれを“標準”にしようとする」
その場が、静まる。
「だが、それはできない」
再現できないものは、制度に落とせない。
「だから、彼は使わなかった」
それが、結論だった。
工房では。
カイルが、依頼を一つ断っていた。
「申し訳ありません。
その条件では、お受けできません」
相手は、戸惑いながらも引き下がる。
量を取らない。
無理をしない。
“できること”より、
“やらないこと”が増えている。
「……もったいないですね」
ミレアが、ぽつりと言った。
「そうでしょうか」
カイルは、手を止める。
「今、全部やったら、終わります」
技術が、ではない。
信頼が、だ。
ミレアは、何も言わなかった。
夕方。
工房の前で、立ち止まる影がある。
ロッドだった。
「……聞いた」
短く言う。
「国家案件、断ったんだってな」
「全部は、やっていません」
「それでいい」
ロッドは、少しだけ笑った。
「前も、そうだった」
必要なところだけを、きちんと直す。
無理はしない。
「それが、一番助かった」
その言葉を聞き、カイルは目を伏せる。
使われなかった工程は、無意味ではない。
今は、使われないだけだ。
いつか。
世界の方が追いついた時、
初めて意味を持つ。
その時まで――
技術は、ここに置いておく。
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