第22話 条件付きの仕事
拠点を離れる直前、エルザが足を止めた。
「この件は、報告書に残します」
雪混じりの風の中で、彼女は淡々と言った。
「ただし、国家としての正式案件にはしません」
「でしょうね」
カイルは、特に感情を込めずに答える。
ミレアが一歩前に出た。
「今回の対応は、“再現可能な範囲”に限定しました」
「把握しています」
エルザは頷く。
「本来の工程ではないことも」
だからこそ、問題が残る。
「次に同様の事態が起きた場合、どうしますか」
その問いは、カイルに向けられていた。
「同じ条件なら、同じ対応をします」
即答だった。
「それ以上は、やりません」
エルザは、わずかに目を細める。
「国家としては、非常に扱いづらい」
「分かっています」
扱いづらいからこそ、守れるものがある。
その意図を、エルザは理解していた。
「……条件を整理しましょう」
彼女は、帳面を開く。
「今後、同様の“例外依頼”が発生した場合」
一つずつ、言葉を区切る。
「第一に、正式契約は結ばない」
「第二に、工程の全公開は求めない」
「第三に、成果は“暫定対応”として扱う」
国家は、責任を限定する。
カイルは、技術を限定する。
奇妙だが、釣り合いは取れていた。
「代わりに」
エルザは続ける。
「記録は提出してください。
使われなかった工程も含めて」
ミレアが、静かに口を開く。
「核心部分は、伏せます」
「構いません」
即答だった。
「そこまで踏み込めば、制度が壊れる」
それは、エルザ自身の言葉だった。
短い沈黙。
やがて、エルザは帳面を閉じる。
「これが、今できる最大限です」
妥協ではない。
現実だった。
「……受けます」
カイルは、そう答えた。
「人が死なない範囲で」
エルザは、小さく息を吐いた。
「あなたは、やはり――」
言いかけて、やめる。
「いえ。記録に残します」
その夜。
工房に戻ったカイルは、ノートを開いた。
『国家例外案件・条件付き対応』
そう書き出し、次の行で手を止める。
やらなかったこと。
できたが、しなかったこと。
それらを、丁寧に記していく。
ミレアは、その様子を黙って見ていた。
「抑えましたね」
「ええ」
「後悔は?」
「ありません」
本気を出さないことが、
本気で守る選択になることもある。
工房の灯りが、静かに揺れる。
この技術は、まだ世界には出ない。
だが。
“使われなかった理由”まで含めて、
確かに、積み上がり始めていた。
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