第21話 それでも、必要になる
知らせは、急だった。
国家技術局からではない。
だが、国家に近いところからだった。
ミレアが持ち込んだ一通の書簡には、簡潔な要件だけが書かれている。
『北部補給拠点にて装備不具合が発生。
現行規格では対応困難。
技術協力を要請する』
「……国家案件ですか」
カイルは、書簡から目を上げた。
「正確には、“国家管理下の拠点”です」
ミレアは淡々と補足する。
「正式な国家依頼ではありません。
エルザ個人の判断です」
あの日の結論が、頭をよぎる。
――正しいが、使えない。
国家としては採用しない。
だが、現場では困っている。
「規格装備が壊れたんですか」
「壊れました」
ミレアは、帳面を開く。
「地形が特殊で、補給が遅れています。
応急修理では、次の任務に耐えない」
カイルは、しばらく考えた。
断る理由はある。
国家に合わせて作るつもりはない。
だが。
「……人は?」
「死者は、まだ」
その一言で、答えは決まった。
「行きます」
ミレアは、すぐに頷かなかった。
「条件があります」
「分かっています」
カイルは、先に言う。
「全部はやらない。
再現できる範囲までです」
ミレアの口元が、わずかに緩む。
「それでいい」
翌日。
北部補給拠点は、張り詰めた空気に包まれていた。
装備を外した兵士たちが、沈んだ表情で待機している。
「……この人が?」
現場責任者が、半信半疑でカイルを見る。
「正式な国家技術者ではありません」
エルザが、静かに告げた。
「ですが、今回の件に限り、私の判断で招いています」
責任者は、何か言いかけて黙った。
選択肢が、他にない。
カイルは、装備を一つ手に取る。
歪み。
金属疲労。
数値では問題ないが、限界が近い。
「……使い方が、合っていません」
「規格通りだ」
「この地形では、無理があります」
淡々と告げ、工具を取る。
工程は、簡素だった。
余計な調整はしない。
癖を見るが、深くは踏み込まない。
“できる範囲”だけ。
数時間後。
「……動く」
兵士が、装備を着けて呟く。
「完璧ではありません」
カイルは言う。
「ですが、次の任務には耐えます」
責任者が、エルザを見る。
「これで……」
「ええ」
エルザは、頷いた。
問題は、解決した。
だが、誰も満足していない。
全員が分かっていた。
――本当は、もっと良くできた。
帰り道。
エルザが、静かに口を開く。
「これが、国家の限界です」
カイルは、何も答えなかった。
必要とされる。
だが、使われきらない。
その矛盾は、
これから、さらに大きくなる。
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