第20話 正しい技術は、使えない
国家技術局の会議室には、結論だけが残っていた。
机の中央に置かれたのは、一枚の文書。
そこには簡潔な文言が記されている。
『当該技術の国家装備としての正式採用は、当面見送る』
エルザ・フォン・リヒトは、その文書を静かに見つめていた。
「再現性がない以上、制度に組み込めません」
補助官の一人が、確認するように言う。
「個人技術としては優秀ですが、
国家規模で運用するには、リスクが高すぎます」
反論は出なかった。
工程は理解できる。
思想も正しい。
だが、“人を見る技術”は教育できない。
「例外扱いは?」
別の補助官が尋ねる。
「記録には残します」
エルザは即答した。
「ですが、採用はしません。
例外を前提にした制度は、制度ではない」
それが、国家としての結論だった。
数時間後。
その判断は、正式な通知として工房に届いた。
簡潔で、感情のない文面。
ミレアが、先に目を通す。
「想定通りです」
そう言って、紙をカイルに渡した。
「国家は、正しいものより“扱えるもの”を選ぶ」
カイルは、静かに読み終える。
「……理解できます」
拒絶されたわけではない。
否定されたわけでもない。
ただ、使われなかっただけだ。
「悔しくはありませんか」
ミレアが、珍しく問いかけた。
「いいえ」
少し考えてから、答える。
「もし国家に合わせて作れば、
今度は現場が壊れます」
ミレアは、頷いた。
「それでいい」
その日の午後。
工房に、新しい依頼が届く。
国家ではない。
だが、国家に近いところから。
「……断りますか」
「いいえ」
カイルは、短く答えた。
「これは、現場の依頼です」
制度ではなく、人が必要としている。
それだけで、理由は十分だった。
遠くで、鐘が鳴る。
国家の判断は下った。
だが、それで終わりではない。
正しい技術が使われないという事実は、
必ずどこかで、歪みを生む。
その歪みが、
次にどこで噴き出すのか――
まだ、誰も知らない。
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