第19話 証言者
国家技術局の小会議室は、実験室よりも静かだった。
中央の机を挟んで座るのは、エルザ・フォン・リヒトと数名の補助官。
その正面に、落ち着かない様子で腰掛けているのがロッドだった。
「緊張する必要はありません」
エルザが淡々と告げる。
「事実確認です。あなたの体験を、そのまま話してください」
「……分かった」
ロッドは一度、深く息を吐いた。
「俺は、元冒険者ギルド所属の前衛だった」
そこから語られる内容は、派手な武勇談ではない。
装備が壊れにくかったこと。
長期依頼でも疲労が溜まりにくかったこと。
同じ魔物、同じ戦場で、明らかに差が出ていたこと。
「数値は、普通だった」
ロッドはそう前置きする。
「だが、使ってみると違った。
振った時に、迷いが出ない。
防具が、動きを邪魔しない」
補助官の一人が、記録を取りながら口を挟む。
「それは、心理的な問題では?」
「違う」
ロッドは即答した。
「壊れないと分かっている装備と、
壊れるかもしれない装備じゃ、動きが変わる」
その言葉に、補助官は黙った。
「……いつから、その差に気づいたのですか」
エルザの問いに、ロッドは少し考える。
「後になって、だ」
苦い笑みを浮かべる。
「追放された後だ」
室内に、わずかな沈黙が落ちる。
「カイルがいなくなってから、
装備が変わった。
最初は、俺たちの調子が悪いと思った」
だが、違った。
「直してもらえなくなったんだ」
誰も、工程を理解していなかった。
誰も、癖を見ていなかった。
「……それを、当時は?」
「言えなかった」
ロッドは、視線を伏せる。
「数値は問題なかったからな。
俺が感覚で言っても、信じてもらえなかった」
エルザは、ペンを止めた。
「あなたは、その技術者をどう評価しますか」
ロッドは、迷わなかった。
「現場を、ちゃんと見てた」
それだけだった。
「強くするためじゃない。
生きて帰るための装備を作ってた」
その言葉は、記録に残される。
数値ではない。
理論でもない。
だが、確かに存在した“証言”として。
会議が終わり、廊下に出たロッドは、壁にもたれた。
「……今さら、だな」
自嘲気味に呟く。
だが、背後から声がした。
「いい証言でした」
振り返ると、エルザが立っている。
「国家は、すぐには動けません」
そう前置きしてから、続ける。
「ですが、記録は残ります。
次に判断する者のために」
ロッドは、少しだけ肩の力を抜いた。
「それで、十分だ」
一方、その頃。
路地裏の工房では、カイルがいつも通り火を入れていた。
自分の知らないところで、
言葉が、記録が、積み上がっていることを――
彼は、まだ知らない。
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