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追放された鍛冶錬金師は、数値を信じるギルドを見限って静かに最強になる 〜評価されなかった生産職ですが、使った人だけが違いに気づきます〜  作者: 神崎タクミ


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第18話 再現できない理由

 国家技術局の実験室は、工房とはまるで違う空気をしていた。


 整然と並んだ作業台。

 寸分の狂いもなく配置された工具。

 壁には、工程表と数値データが貼り出されている。


「条件は、揃えました」


 エルザ・フォン・リヒトは、淡々と言った。


「素材は同等品質。工程も、あなたが示した通りです」


 作業台の前に立つのは、国家所属の鍛冶技術者。

 腕は確かで、規格装備の製作では一流と呼ばれる人物だった。


「始めます」


 火が入る。

 工程表に従い、決められた順で作業が進む。


 叩く回数。

 冷却時間。

 研磨の角度。


 すべて、記録通り。


 エルザは、少し離れた位置からその様子を見ていた。

 表情は変わらないが、視線は細部を追っている。


「……完成です」


 出来上がった剣は、見た目には問題がなかった。

 数値測定でも、基準を上回っている。


「では、使用テストに入ります」


 模擬戦用の人形が用意され、剣が振られる。


 最初の数撃は、悪くない。


「問題は――」


 三撃目で、違和感が出た。


 剣の軌道が、わずかに乱れる。

 持ち手が、無意識に握り直される。


「……重心が、合っていない?」


 技術者が眉をひそめる。


「数値は一致しています」


 補助官が即座に言う。


「理論上は、同じはずです」


 だが、振っている本人の表情は冴えなかった。


「使えないわけじゃない。だが……」


 言葉を探し、首を振る。


「馴染まない」


 その一言で、室内が静まった。


 エルザは、ゆっくりと歩み寄る。


「工程を、もう一度確認します」


 数値。

 順序。

 時間。


 どこにも、間違いはない。


「……カイル」


 彼女は、工房主の名を呼んだ。


「違いは、どこですか」


 カイルは、少しだけ考えてから答えた。


「工程の中です」


「どこに?」


「記録に残らない部分です」


 エルザは、視線を鋭くする。


「それは、何ですか」


「使う人の動きです」


 即答だった。


「癖、力の入り方、踏み込みの角度。

 それを見ながら、叩く位置と強さを変えています」


「それは……」


 エルザは、言葉を失う。


「数値化できませんね」


「はい」


 カイルは頷く。


「だから、再現できない」


 しばらくの沈黙。


 やがて、エルザは静かに言った。


「国家では、採用できない理由が、はっきりしました」


 それは否定ではない。

 確認だった。


「だが」


 一拍置く。


「現場で、必要とされる理由も」


 ミレアが、帳面を閉じる。


「人を基準にする技術です」


 エルザは、完成した剣を見つめた。


 正しい。

 だが、制度には落とせない。


「……結論は、変わりません」


 国家としての判断は、採用保留。


 それでも。


 彼女は、その名を書き留めた。


 “例外技術”として。


 記録に残った瞬間、

 その技術は、もう消えない。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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