第17話 国家の視線
第17話 国家の視線
工房の前に立つ女は、明らかに場違いだった。
仕立ての良い外套。
無駄のない立ち姿。
冒険者でも、商人でもない。
「ここが、カイル・エルグの工房ですね」
静かな声だった。
「……そうですが」
カイルが答えると、女は一枚の証を差し出した。
国家紋章入りの金属板。
肩書きは簡潔だった。
『国家技術監査官』
「エルザ・フォン・リヒトと申します」
名乗り終えると、すぐに本題に入る。
「あなたの装備について、いくつか確認したいことがあります」
拒否という選択肢がないことは、言外に伝わってきた。
工房に通すと、エルザは中を一瞥し、すぐに評価を始める。
「設備は簡素。だが、配置に無駄がない」
作業台。
工具。
素材の保管方法。
「規格外ですが、合理的です」
感情を挟まない口調。
「工程を、見せてください」
命令ではない。
だが、断る理由もない。
カイルは、依頼中の装備を手に取った。
ロッドの剣だ。
火を入れ、歪みを整える。
刃を叩く。
柄の芯を微調整する。
いつも通りの作業。
エルザは、メモを取りながら一切口を挟まない。
「……興味深い」
作業が終わった後、初めて感想を口にした。
「数値を、ほとんど見ていない」
「必要な場面では、見ます」
「だが、主ではない」
エルザは頷いた。
「属人性が高い」
その評価は、正しかった。
「再現は?」
「難しいです」
即答だった。
「教えることはできますが、同じ結果にはなりません」
「理由は?」
カイルは、少し考えてから答える。
「使う人が違うからです」
エルザは、ペンを止めた。
「……国家装備としては、不向きですね」
結論は早かった。
だが、そこで終わらない。
「ただし」
一拍置く。
「個人装備としては、極めて優秀です」
ミレアが、静かに口を開いた。
「それが、現場です」
エルザは彼女を見る。
「あなたは?」
「記録担当です」
「……なるほど」
視線が戻る。
「あなたの技術は、正しい」
エルザは、淡々と言った。
「ですが、国家は“正しい”だけでは動けない」
制度。
規格。
教育。
「今のままでは、採用はできません」
宣告に、感情はない。
カイルは、頷いた。
「理解しています」
それを聞いて、エルザは一瞬だけ表情を変えた。
「……反論しないのですね」
「分かっているからです」
エルザは、少しだけ息を吐いた。
「では、一つだけ」
最後の質問。
「それでも、あなたはこのやり方を変えませんか?」
カイルは、迷わなかった。
「変えません」
エルザは、静かに頷いた。
「記録に残します」
それだけ言って、工房を後にする。
去り際、ミレアが呟いた。
「通しましたね」
「……ええ」
カイルは、剣を見下ろす。
国家には使えない。
だが、必要とされないわけではない。
その矛盾が、
これからの火種になることを――
まだ誰も、口にしなかった。
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