第15話 追放は、間違いだった
事故は、連鎖した。
高難度依頼の帰還報告が、立て続けに上がる。
「防具の固定具が外れた」
「剣の芯が、戦闘中に歪んだ」
「錬金薬の反動で、動けなくなった者が出た」
どれも、致命傷には至っていない。
だが、無視できる規模ではなかった。
冒険者ギルド本部。
バルドは、机に広げられた報告書を前に、言葉を失っていた。
「……ここまで、続くとは」
副長のセインも、表情を硬くしている。
「新装備の数値は、基準を満たしています」
「分かっている」
バルドは低く答えた。
「だが、現場が耐えられていない」
沈黙が落ちる。
誰かが、ぽつりと口にした。
「……以前は、こうじゃなかった」
その一言が、場の空気を変えた。
バルドは、ゆっくりと顔を上げる。
「以前、とは?」
幹部の一人が、躊躇いながら答える。
「……技術職が、工程を管理していた頃です」
その瞬間。
思考が、一斉に同じ方向へ向いた。
セインが、はっとしたように書類を探す。
「工程……記録……」
過去の報告書をめくる。
「……ない」
細かな調整内容が、どこにも残っていない。
「誰が、やっていた?」
バルドの問いに、誰も即答できなかった。
だが、答えは一つしかない。
「……カイルだ」
名前が出た瞬間、部屋の空気が凍りついた。
「彼が、全工程を見ていた」
「数値に出ない部分を……」
「使い手ごとの調整を……」
言葉が、次々と繋がっていく。
そして、最後に辿り着く。
「……追放した」
バルドは、椅子に深く座り込んだ。
判断を誤った。
それも、取り返しのつかない形で。
「今から、呼び戻せば――」
誰かが言いかけて、止まる。
条件付き復帰。
謝罪。
それで、戻るだろうか。
沈黙が、答えだった。
その頃。
路地裏の工房では、新しい棚が運び込まれていた。
資材が整理され、作業動線が整えられていく。
「……ずいぶん、変わりましたね」
カイルは、そう呟いた。
ミレアは、帳面を閉じる。
「無理が、なくなった」
それだけで、十分だった。
工房の外では、冒険者が静かに順番を待っている。
もう、騒がしくはない。
だが、確実に信頼されている。
遠くで、ギルドの鐘が鳴った。
カイルは、一瞬だけ耳を澄ませ――すぐに作業へ戻る。
もう、振り返る理由はない。
一方、ギルド本部では。
バルドが、重く呟いた。
「……追放は、間違いだった」
その言葉は、
誰の元にも、届かない。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




