第14話 値段の付け方
工房の様子が変わったのは、目に見えて分かるほどだった。
資材が安定して入るようになり、
作業の流れも整理された。
無理な依頼は受けない。
納得できない工程は省かない。
結果、仕事量は減った。
だが、滞りはなくなった。
「……今日は、ここまでです」
そう告げると、冒険者たちは不満を言わずに引き下がる。
その日の夕方。
工房の前に、見慣れない馬車が止まった。
路地には不釣り合いな、手入れの行き届いた車体。
降りてきたのは、仕立ての良い服を着た男だった。
「失礼」
軽く帽子を取って挨拶する。
「ここが、最近噂の工房で間違いないかな?」
「依頼なら、今日は――」
「いや、今日は話をしに来ただけだ」
男は穏やかに笑った。
「私はグランツ。商会をやっている」
名前に聞き覚えはあった。
街でも、それなりに大きな商会だ。
「あなたが、カイルだね」
「……はい」
工房の中に通すと、グランツは興味深そうに辺りを見回した。
「派手じゃない。だが、無駄もない」
ミレアと、同じ評価だった。
「本題に入ろう」
グランツは、懐から帳簿を出す。
「あなたの装備は、評判がいい」
「ありがたいですが」
「だが、安すぎる」
はっきりと言われた。
「この品質で、この価格は続かない」
カイルは、すぐに答えなかった。
「値段を上げるつもりは、ありません」
「ほう」
グランツは、意外そうに眉を上げる。
「理由は?」
「質を下げないためです」
それだけだった。
グランツは、しばらく黙り込む。
「……なるほど」
やがて、納得したように頷いた。
「なら、別の話だ」
彼は、声を少し低くした。
「独占契約に興味は?」
空気が、わずかに張り詰める。
「商会が資材を全て押さえ、
あなたの装備を市場に流す」
「条件次第です」
即答しなかった。
それを見て、グランツは満足そうに笑う。
「いい反応だ」
その時、ミレアが口を開いた。
「技術の独占は、歪みを生む」
グランツは、肩をすくめる。
「商売とは、そういうものだ」
「だからこそ、慎重に選ぶ」
ミレアは、視線を逸らさない。
カイルは、二人を見比べてから言った。
「今は、答えを出せません」
「構わない」
グランツは立ち上がる。
「だが、覚えておいてほしい」
扉の前で、振り返る。
「あなたの仕事には、もう“値段”が付いている」
一拍。
「それも、かなり高い」
馬車が去った後、工房は静かになった。
「……評価、され始めてますね」
カイルが言うと、ミレアは頷いた。
「個人から、社会へ」
それは、後戻りできない段階だった。
遠くで、ギルドの鐘が鳴る。
同じ街で、
評価の向きだけが、完全に逆転しつつあった。
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