第十話 最初の弟子 ②
集落に近づく。
大きな建物が一つ、それに寄り添うようにいくつかの家があるようだった。建物は高さはないものの、横に広い。居住用というわけでもなさそうだ。全体は村というのにしても小規模だ。
近寄ってもひっそりとしている。
「誰もいないのかな」
「どうだろうか」
「あ、あそこ」
建物のそばに誰か立っているのが見えた。背中を向けている。腰まである髪の長さからたぶん女性だろう。
「あの……」
驚かせないように少し離れた位置から話しかける。女性がゆっくりとこちらを振り返った。私たちを見て、完全に身体をこちらに向ける。不審げに私たちを見ている。
「ここには何もありません」
彼女が静かに私たちに言った。
「ここは、何ですか?」
「ここは、学校です」
私の質問に答えながら、彼女はアランを見ている。
「学校?」
「はい」
「何の?」
「魔術学校です」
「魔術の……、学校?」
「はい。学校、でした。今はもう誰もいません。私以外は」
淡々と彼女が言う。
「あなたは……」
アランが彼女に話しかける。握っている手がわずかに力がこもっているように感じた。
「アラン?」
アランが真剣な表情で彼女を見つめているようだった。
「知っている人?」
「いや……。しかし……」
何か思うことがあるのはわかったが、アランは自分のその考えを決めあぐねているようだった。
「アラン?」
正面にいる彼女が呟き、一歩私たちに寄る。
彼女はしげしげとアランを見ている。
年齢は私よりは高い。アランとそれほど変わらないだろうか。どことなく憂いを帯びているような、悪い言い方をすれば疲れているような、そんな表情をしていた。
「アラン=ウェーバー?」
彼女がアランのフルネームを疑問形で言った。
「そうだが……」
「ああ、あなたがアラン様ですか。やはり生きていらっしゃったのですね、先生の言うことは本当だったのですね。先生は間に合いませんでしたが」
「先生?」
「はい、アラン様ならお気づきかと思いますが」
「まさか」
「ここは『参画者』の学び舎。マリア=クレーデルが建てた魔術学校です」
私たちが出会った魂の研究をしている『参画者』と名乗る魔術師たち。彼らが呼んでいた『先生』という存在。魂の研究をしている魔術師は少ないらしいということから、彼女が関与しているのではないか、というのは薄々感づいていた。アランも同じだっただろう。それをお互い言わなかったのは、確信がなかったこと、私自身がそれを避けていたからだ。避けていた理由は、正直なところ自分でもわかっていない。
「マリアは……、間に合わなかったと……」
「はい、先生は、そうですね、六年ほど前に亡くなりました」
「そうか……」
「百歳まで元気で生きていましたので大往生ですよ。そうですね、先生」
彼女がまた背を向け、地面を見る。そこには花が添えられていた。
「そこが彼女の……」
「はい、ここで眠っています」
彼女のお墓があるのだろう。
「学校はすでに閉じられました。私が最後の教え子で、今は先生が残した資料を整理しています。他の者は学校を出て散り散りになりましたが」
「それでは、この建物が」
「はい、先生と私たちの学校です」
彼女が顔を上げたので二人ともそれに視線を合わせる。
「ご案内いたします。アラン様には懐かしい物もあるでしょう」






