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【5/2コミカライズ一巻発売】【完結保証】およそ100年幽閉されていた魔術師夫婦は世界を巡る  作者: 吉野茉莉
第十話 最初の弟子

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第十話 最初の弟子 ②

 集落に近づく。


 大きな建物が一つ、それに寄り添うようにいくつかの家があるようだった。建物は高さはないものの、横に広い。居住用というわけでもなさそうだ。全体は村というのにしても小規模だ。


 近寄ってもひっそりとしている。


「誰もいないのかな」


「どうだろうか」


「あ、あそこ」


 建物のそばに誰か立っているのが見えた。背中を向けている。腰まである髪の長さからたぶん女性だろう。


「あの……」


 驚かせないように少し離れた位置から話しかける。女性がゆっくりとこちらを振り返った。私たちを見て、完全に身体をこちらに向ける。不審げに私たちを見ている。


「ここには何もありません」


 彼女が静かに私たちに言った。


「ここは、何ですか?」


「ここは、学校です」


 私の質問に答えながら、彼女はアランを見ている。


「学校?」


「はい」


「何の?」


「魔術学校です」


「魔術の……、学校?」


「はい。学校、でした。今はもう誰もいません。私以外は」


 淡々と彼女が言う。


「あなたは……」


 アランが彼女に話しかける。握っている手がわずかに力がこもっているように感じた。


「アラン?」


 アランが真剣な表情で彼女を見つめているようだった。


「知っている人?」


「いや……。しかし……」


 何か思うことがあるのはわかったが、アランは自分のその考えを決めあぐねているようだった。


「アラン?」


 正面にいる彼女が呟き、一歩私たちに寄る。


 彼女はしげしげとアランを見ている。


 年齢は私よりは高い。アランとそれほど変わらないだろうか。どことなく憂いを帯びているような、悪い言い方をすれば疲れているような、そんな表情をしていた。


「アラン=ウェーバー?」


 彼女がアランのフルネームを疑問形で言った。


「そうだが……」


「ああ、あなたがアラン様ですか。やはり生きていらっしゃったのですね、先生の言うことは本当だったのですね。先生は間に合いませんでしたが」


「先生?」


「はい、アラン様ならお気づきかと思いますが」


「まさか」


「ここは『参画者』の学び舎。マリア=クレーデルが建てた魔術学校です」


 私たちが出会った魂の研究をしている『参画者』と名乗る魔術師たち。彼らが呼んでいた『先生』という存在。魂の研究をしている魔術師は少ないらしいということから、彼女が関与しているのではないか、というのは薄々感づいていた。アランも同じだっただろう。それをお互い言わなかったのは、確信がなかったこと、私自身がそれを避けていたからだ。避けていた理由は、正直なところ自分でもわかっていない。


「マリアは……、間に合わなかったと……」


「はい、先生は、そうですね、六年ほど前に亡くなりました」


「そうか……」


「百歳まで元気で生きていましたので大往生ですよ。そうですね、先生」


 彼女がまた背を向け、地面を見る。そこには花が添えられていた。


「そこが彼女の……」


「はい、ここで眠っています」


 彼女のお墓があるのだろう。


「学校はすでに閉じられました。私が最後の教え子で、今は先生が残した資料を整理しています。他の者は学校を出て散り散りになりましたが」


「それでは、この建物が」


「はい、先生と私たちの学校です」


 彼女が顔を上げたので二人ともそれに視線を合わせる。


「ご案内いたします。アラン様には懐かしい物もあるでしょう」

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