第十話 最初の弟子 ①
ポラリスと別れ、私たちは転送門をくぐり抜けた。
「すごい」
平野が広がっている。遠くまで見通せるくらいには山も森もない。ずっと向こうに建物が建っているのがかろうじて見て、それらがいくつかあることから、そこに集落のようなものがあるらしい、ということがわかる。
その集落よりも手前のここで、今まで見たこともなかった景色が広がっていた。
転送門を通った先にあったのは別な転送門だった。それも一つではない、ばらけるように視界の範囲では五つはあるだろうか。転送門を一度使い、次の村に行くためにワンクッション置いて別な転送門を使うことはあったが、これほど密集していることはなかった。
「世界の歪み、か」
アランが呟いた。
転送門が成り立つ理由に、『正しい世界』では今見ている世界とは違う、歪みで『折り畳まれ』ている、という事実がある。
「それがたくさんある?」
「そうみたいだ」
この場所はその歪みが集まっているのだろう。
「ここ自体が、かなり歪んでいるのだろう」
「アランにはわかる?」
アランは一つ一つの転送門を見て、それから首を振った。
「たしかに、奇妙な感じはする。だが、それだけだ。ここに歪みがあるとは見て取れない」
「アランでもそうなんだ。マリアさんってすごかったんだね」
転送門を発明したのはアランの弟子だったマリアという人だ。彼女が五十年前に転送門を発明したのだという。私から見ても才能があるアランにすら見えない世界の歪みを彼女は見出したのだ。
「前にも言ったとおり、マリアは魔術師として秀でた才能があるようには思えなかった。私といたときは、そうだな、平均的な魔術師とさほど変わりはなかった。どこか尖っているところもなければ、劣っているところもなかった。特別目がよかったという記憶もない。努力を才能が上回ったんだろう」
「どうして気がついたんだろう」
「さあね」
「マリアさんも魂の研究をしていたの?」
「私の弟子だからそうなる」
「どうしてか聞いたことがある?」
「いや、そういう個人的な理由は普通魔術師同士はあまり詮索をしない。弟子であってもだ。それぞれに思うところがあり、それぞれに意思がある。分かち合うこともあるかもしれないが、それが個人に影響をすることを極力避ける」
「自分の意思で選択すること、が大事ってこと?」
「そう」
「でもお互いに知り合って、会話をして、色んなやり取りをして、それで選択に影響を与えるってことは、悪いことじゃないんじゃないの?」
「そうだね、最初から強い意思を持っている人はいない。才能だけではなく、環境が人を作るのも事実だ。ただ魔術師となったからには、その意思は揺るがないものとなる。少なくとも、そうすべきである、とみんな思っている。今の魔術師がどうなのかはわからないが」
「じゃあ、あの、アランの師匠だった……」
「エチカ師匠」
「そう、その、エチカ師匠がどうして魂の研究をしていたのかも知らないの?」
アランが頷く。
「私は知らない。私が聞いたこともないし、彼女が語ったこともない」
「なんか変なの」
「しきたりを知らない人にはそう見えるかもね。さて」
アランが周囲を見渡す。
「どの転送門が一番近いのか」
複数の選択肢があったのは初めてだ。転送門は直線で繋がっているわけではないので、単純な位置ではわからない。
「ここがどこかもわからないし。あそこに行けば何かわかるかな?」
集落を指さす。
「そうしよう。転送門が複数あることの理由が何かわかるかもしれない」
お互い顔を合わせて頷き合う。






