第九話 双子の星 ⑧
ポラリスたちの家に戻り、ポラリスの部屋に入ると、彼は起き上がっていて、ベッドに腰掛けていた。
「もう大丈夫だよ、お兄ちゃんたち」
疲れた表情で少しやつれていたが、会話はできるくらいまで回復していた。
「よかった」
「お兄ちゃんたちは、出て行くんだね」
「うん。今日のうちに出て行こうと思う」
ポラリスはすでに何かを察しているようだった。
アランが言う。
「二日後には国家魔術師が来る。そこで君は保護されるだろう」
「そう、それって、捕まるってことだよね?」
「わからない。どう扱われるのかは知らない」
「そっかあ」
「でも、かばってはくれたんだね」
私もアランも、あの屋敷で魔術の痕跡を発見した。私はわずかだったけど、アランが死体を見る限りはほとんど明らかだったという。
だけど、私たちのどちらも、それを明確にしなかった。どうして二人の意見が一致したのかはわからない。アランは正直に答えるのではないかと思ったが、思うところがあったのかもしれない。
「かばったわけではない」
そう思っていたいたところでアランが言う。
「どちらであっても、私たちのことを信じることはなかっただろう。魔術師ができると言うのなら、私たちも容疑者の一人だよ。君たちみたいに前から住んでいるより、昨日来た人間の方が怪しいと思われてもおかしくない。できないと私たちが言っても今は信じてくれないだろうが。私たちの」
実際、私たちも中央都市に連絡が行き、国家魔術師が来るまでこの街に留まるように言われている。魔術の痕跡が見られれば、私たちも何らかの取り調べを受けることになる。存在していないはずの私と、はるか昔に追放されているはずのアラン、どちらも詳しく調べられると都合が悪い。だからこそ、今のうちに逃げてしまおうということになったのだ。魔術師が来ないうちであれば、認識魔術でも使って隠れて逃げるのは難しくない。
「どうしてカノープスはこんなことをしたの?」
私の問いかけにポラリスは力なく答えた。
「僕たちはこの街に縛られているんだよ。あいつの魔術のせいで、身体の中に爆弾みたいなものが埋め込まれているんだ。あいつがその気になればいつでも僕たちを殺せたってわけ。まあ、参画者の下っ端だったんだろうね。その爆弾を解除する方法はたった一つしかなかった」
「それで彼を殺したのか」
「そうだよ」
「育ての親だって」
「それは言ったけど、良い親だとは言っていないよお姉ちゃん。世の中には色々な親がいる、その中には子供をなんとも思っていない親もいる。そうでしょ? それにあいつとは血が繋がっているわけでもないし、単にご飯と住む場所を与えてくれただけだよ。絶対に逆らうことができない子供にどういうことをする人間がいるか、お姉ちゃんでもわかるんじゃないの?」
ポラリスは悪びれているようにも見えない。
「それで……」
「カノープスは結界の範囲内にあるものを見なくても動かすことができるからね。そう、『人間の手』でもね」
だとすると、かなり強力な魔術だ。物を動かすだけでも大変なのに、視界の範囲外にいる、距離のある魔術師の手を狙って動かすなど通常では考えられない。
「それでカノープスがどうなるのかわからなかったのか」
「お兄ちゃんたちは、むしろ、どうして『今』って思ったんじゃないの?」
「それは、そうだけど」
「僕たちは賭けをしたんだ。賭けはお兄ちゃんたちがうちに泊まるかどうか。言い出したのはカノープスで、先に選んだのもカノープス。お兄ちゃんたちが泊まらないのなら、この計画は延期」
「賭けって」
「魔術をどっちが使うかなんて僕たちにはどうでもいいことなんだよ。僕たちは双子で、この規模なら二人一緒に使うんだから」
「それじゃあポラリスだったかもしれないじゃない」
「うん、そうだね、そうだったかも。ああ、勘違いしないでね、お兄ちゃんたちに責任があるわけじゃないよ、これは僕たちの賭けで、神様に託したってだけだから」
「悲しくないの?」
不思議な顔でポラリスが返した。
「悲しいよ? でも死んでしまったものは生き返られないんじゃないの? それにカノープスは僕の中で生き続ける。僕たちはこれでようやく一人になれたんだ」
ポラリスが自分の胸に手を当てた。
「何を言って……」
ポラリスをじっと見て昨日とは違う感覚があった。
「魔力の量が増えて……」
ポラリスの魔力がはっきりと見える。私の能力が上がったのではなく、単純に魔力量が増えてわかりやすくなったのだ。
「カノープスの魔力を取り込んだのか」
「そうだよお兄ちゃん、僕たちは元々一つなんだから」
ポラリスはにこにこと笑っている。
「それじゃ、いつ出発する?」
「え?」
「僕も一緒に行くよ。ここにいたって魔術師が来たら何されるかわからないでしょ。途中まででいいから、一緒に行こうよ。僕は認識結界はまだ得意じゃないし、ついていくならお兄ちゃんたちと行った方がいいでしょ」
「カノープスは」
「身体がなくなったんだからもうここにいても仕方ないよ、お葬式をする必要だってないし」
「そう、ね、私たちは明日の早朝には出るつもり。監視されているかもしれないけど、結界を張れば大丈夫だと思う」
「わかった。僕も準備をしておくね」






