第九話 双子の星 ⑨
早朝に荷物をまとめた私たちが階下に行くとリュックを背負ったポラリスが立っていた。
「じゃあ、いこう。結界は任せるね」
ポラリスはちょっとその辺まで出かけるみたいな軽い言葉だった。
「思い残すことは?」
「ないよ。カノープスの服も置いてきた」
「エミーリア」
「うん」
私が杖をかざして認識結界を張る。それで私たちは外から見えなくなったはずだ。今までよりも安定している気がする。三人を囲むには十分だ。単に繰り返した回数が増えたからか、アランの反射結界を引き継いだという経験からだろうか。
ポラリスは私たちの背後に立ってついてくる。
早朝ということで人がいないのもあったが、結界のおかげで誰にも気がつかれず街の外に出ることができた。
「もういいよ」
アランに言われて息を大きく吐き、結界を解除する。
「ありがとう、お姉ちゃん」
ポラリスが礼を言った。
「これからどうするの?」
「うーん、どうしようかな。もう少し二人についていきたい気もするけど」
ポラリスは服のポケットからコインを取り出して空に投げ、左手の甲で受け止め右手で蓋をする。右手を離し、それを見た。
「カノープスもそう言ってるし、『僕たち』はここでお別れしようかな」
「僕、たち?」
「ねえお姉ちゃん」
コインを仕舞いながらポラリスが私を見ている。悪戯っぽい顔をしている。
「僕はカノープスを愛していたし、カノープスもそうだったと思う、ただの双子の片割れというだけじゃなくてね。愛する二人が文字通り『一つ』になることって、とても素敵なことだと思わない?」
ポラリスの言葉に返すことができない。
ポラリスは何を意味しているのだろう。
まるで私たちの関係を見透かしているようだった。
「とりあえず中央都市は避けてふらふらしてみるよ。お尋ね者になってるかもだからね。ああ、それはお兄ちゃんたちも同じか。でもお兄ちゃんたちは名前も知られていないもんね。危ないのは僕だけか」
ポラリスはあくまで明るい雰囲気を崩さない。
「僕は見たことがないけど、あっちの方に転送門があるみたいだよ。お兄ちゃんたちの行きたい方向ならその転送門を使うのがいいんじゃないかな」
「ありがとう」
「じゃあ、僕はこっちの方向に行こうかな」
「そう、じゃあ……」
「うん、お兄ちゃんもお姉ちゃんも元気でね」
ポラリスがリュックの紐に手を掛けて、一度体勢を整える。
「ポラリス」
「なに?」
昨日からずっと感じていた違和感を、勇気を出して聞くことにした。
「あなた、本当にポラリスなの?」
私が立っている彼に聞く。
あのとき魔力暴走で消えたのはカノープスだったと思う。ただ自信がない。私が区別ができるのは服装以外は髪の長さだけだ。あのとき、倒れていた彼女の髪は長かっただろうか。溶けかけて、それも判別がつかなかったのではないだろうか。
だとしたらカノープスがポラリスに成り代わることも可能ではないか。
でも何のために?
育ての親の魔術師を殺すのは建前で、今こうして一人になることが目的だったのではないか。
それも何のために?
彼は表情を変えず笑顔のまま返した。
「どうでもいいじゃない、そんなこと。僕たちはこれで『完全な一人』になったんだから」
曖昧な返事。
彼はズボンの太ももの端を掴んでスカートでそうするように広げてお辞儀をした。
彼の最後の言葉は、声が重なって聞こえた気がした。
「お兄ちゃんお姉ちゃん、それでは、ごきげんようさようなら」






