第九話 双子の星 ⑥
「ポラリスは?」
部屋に戻ってきたアランにベッドで腰をかけていた私が聞くと、アランは口の端を上げた。
「今のところは問題ない。眠っているだけだ」
「そう」
「直に目が覚めるとは思うが」
カノープスが溶けてしまってから一日が経った。ショックなのかポラリスは気を失ってしまい、その場に倒れてしまったのでポラリスの部屋と思わしき場所まで連れていき、ベッドに寝かせた。
部屋でアランが座る。
「恐れていたことが起こった」
アランが言った。
「魔力暴走って」
「力量に伴わない分不相応な魔術を使い、魔力を消費しすぎると人体にある魔力が空になる。魔力はマイナスにはなれない。そうすると人体は生命を維持するために失った魔力を取り返そうとする。魔力の流れが乱され、存在しない魔力を得ようとして均衡が崩れる。それが魔力暴走だ。魔力暴走は人体の形そのものを崩してしまう」
「私のとは違う?」
「君の場合は私が意図的に魔力暴走に近い現象を起こしたが、君は魔力が無尽蔵にも近い量があるわけだから、周囲のものをまとめて取り込みながら防衛として認識結界を張りその中で閉じこもることで自らを守った」
アランが手振りでぐるりと円を描いた。
「普通は魔力暴走は起こらない。訓練された魔術師はその限界まで魔術を使わないように徹底しているし、また魔術も維持できず勝手に中断されてしまう。つまり、限界まで使う能力、というものそのものが、魔術師は持てないんだよ。ただ彼らはその接続能力の高さ故に、まるで魔力の残量が存在しないかのように強大な魔術が使えてしまう。だが、実際には魔力量には限りがある。数千倍の量を持つエミーリア、君であってもね。無尽蔵であることと、無尽蔵に近いこととは、まったく違う。だから……」
そこでアランが一呼吸置いた。何かを言わせようとする仕草だ。
「カノープスは何かの魔術を使ったの?」
「そう、たぶん」
「それは、どんなものを」
「わからない。彼女の魔力量は、その接続能力に比例して飛び抜けて高いわけではなかった。一般的な魔術師とさほど変わりない。彼女が何をしたのか、ポラリスなら知っているかもしれない。彼が起きるまでまず待とう」
「うん」
私たちたちが話し合い、少し落ち着いたところで玄関のドアがノックされた。顔を合わせて、二人で玄関に降りていく。
ドアを開けると男性が立っていた。
「あっ」
男性は私たちを見て一瞬言葉を詰まらせたように見えたが、すぐに取り直した。
「ここに魔術師がいると聞きました」
彼が言っているのはポラリスとカノープスのことだろう。
「今は、調子が悪くて伏せています。会話をするのは少し難しいと」
私はポラリスのことだけを言った。
「そうですか……」
「何かありましたか?」
「すみません、あなた方は?」
「私たちは旅の者です」
「ここの魔術師とは……」
「昨日初めて会いました」
「あなた方も魔術師ですか?」
「ええ、はい」
「それは……。お手数ですが、お力を貸していただけませんか?」
「どんな?」
「とりあえず領主の家までお願いします。歩きながらお話します」
「わかりました」






