第九話 双子の星 ④
「天気、悪くなってきたね」
私が窓から外を見た。黒い雲が近寄ってきているのがわかった。
アランは椅子に座っている。
「部屋を貸してもらえたのはよかった」
私たちは二人と楽しく時間を過ごしたあと、宿屋を探さないというところで、ポラリスが余っている部屋があるから使って泊まってほしいと言ったのだ。お金に余裕はまだあるとはいえ節約できるところは節約しておきたいし、彼らの申し出を断る必要もないので快く受けることにした。
意外に思ったのが、ポラリスよりもカノープスの方が私たちが滞在することに喜んでいるように見えたことだ。
代わりに私たちは街へこれからの買い出しのついでに食料を買い、夕食を作ることにした。簡単な食事だったけど、二人は喜んでくれたし、無理矢理手伝いをさせたアランが一通りの調理ができることにも驚いた。これまでの道中は移動中携帯したものを食べるか、その街ならではのものを食べたいと街の食事処で食べるかしていたので意外だった。聞けばアランがエチカ師匠という魔術師の元で暮らしていたときにはほとんどの家事をさせられていたらしい。そういう知らない面を知られるのはとても嬉しい。
「もったいない、か」
アランが呟いた。
「アランはどう思うの?」
「人の生き方はそれぞれが決めればいい。その選択のよりどころを神様というのにも頼ったとしても、本人が納得しているのならそれをとやかく言う筋合いは誰にもない」
いつもの通りのアランだ。
「ただ、それでも、やはり、エミーリア、君と同じく、もったいないとは思ってしまうね」
「そう」
「魔力の多寡は周囲にもわかりやすい。客観的に調べる方法もいくつかある、君がそうであったようにね。ただあの二人は魔素への接続能力が天性のものなのだろう。ほとんどの魔術師はそれを長い時間の修練で研ぎ澄ましていくものだが、二人はそれを無意識下で行っている。言い換えれば、二人は人間というより自然物に近い。才能というより他ないが……」
そこでアランが言い淀む。
「魔力の消費の制御ができずあの接続能力で魔術を使い続けるのであれば、対価が命そのものになってしまう。契約も命令もせず魔術を行使するなど本来あってはならないものだ。魔術はそこまで万能ではない」
「そのことは」
「この街にいる魔術師が知らないとすれば、私たちから言った方がいいだろう。中央都市に行って正式な訓練を受けた方がいいが、それが無理なら魔術を極力使わないか、ある程度はコントロールできるようになった方がいい」
「どのくらい?」
「覚えは良さそうだから、数日あればいいだろう」
「それまでここにいるの?」
「別に急いでいないからね」
アランが首を傾げながら笑顔で言った。
「アランは優しいね」
「大抵の魔術師は魔術の才能のある若者には優しいよ。わざわざ嫉妬したりすることはない。優秀な魔術師が増えればそれだけ魔術が発展するからね。いや、今の魔術師がどのような態度なのかはわからないが」
「それは私も同じ?」
「そうだね、君にも才能がある。君が最終的にどのような道へ進むかは君に任せるが、その才能は活かした方がいい。もちろん活かすべきだ、とまでは思わない」
「二人にも?」
「危険性を伝えた上で、それでも二人が望まなければ強制はしない」
「うん、あ」
窓がカタリと音を立てた。雨粒が斜めに当たったのだ。強い雨が急速に降り始め、空が暗くなった。部屋の中も暗くなる。慌てて灯りをつけるため照明の場所を探す。
そのときだった。
バリバリ、という大きな音が鳴った。同時に空が一瞬光る。おもわず耳を両手で押さえる。
「雷だ」
再度雷が鳴る。
それから家のどこかからから叫び声がした。
「カノープス!」






