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【5/2コミカライズ一巻発売】【完結保証】およそ100年幽閉されていた魔術師夫婦は世界を巡る  作者: 吉野茉莉
第九話 双子の星

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第九話 双子の星 ②

 目の前に街が近づいてきた。壁のない街だが、家々はかなり密集しているようにも見えた。レンガで舗装されている端に足を踏み入れた。


「あれ」


 そこで膜のようなものに触れる。


「感知結界だ」


 魔術師が使う出入りを感知する結界が張られていた。ということはこの街には魔術師がいるということだ。


「でも」


 ただの感知結界ではないのはすぐにわかった。


「二つ、ある?」


「そうだね」


 アランも気がついていたらしい。


 感知結界が二重にかけられている。街の安全のためとしてもほとんど必要のない行為だ。


「結界の質が同じだ」


 アランが結界の境目に触れている。


「そんなこともわかるの?」


「まあね。ただ、君が思う通り、一人が二つの感知結界を同時に張ることは難しいし、それを維持する必要もない。だが、そうだな、それぞれの結界はあまり出来がよくないな、見習いか、あるいは二つで十分に機能するように調整しているのか」


「どうして?」


「わからない、それは」


 二人で結界の内側に一歩入る。これで結界を張っている二人に私たちの存在が知られただろう。もしかしたら魔術師であることもわかったかもしれない。


 そう思ったときだった。


「ようこそ! 魔術師のお二人様! お兄ちゃんと、お姉ちゃんかな、魔術師がこの街に来るのは本当に久しぶりだよ!」


 頭の中に少年のような高くて明るい声が響いた。魔術通信だ。アランを見ると彼にも聞こえているようで、首を傾げていた。


「僕はポラリス。この街の結界を担当しているんだ。えーっとね、ちょっと待って」


 少し時間があって今度は静かな声が聞こえた。


「私はカノープスです。ポラリスと同じく結界を担当しています」


 少女の声だろうか、ポラリスと似たような声、というか同じ声で、一人で二人分を使い分けているようにも聞こえた。


「聞いてる? お兄ちゃんお姉ちゃん?」


 これはポラリスだろうか。


「うん、聞こえているよ」


 私は頭の中で返事をした。口にしないで頭だけで言葉を練るのは少し難しい。


「よかった! できればお兄ちゃんとお姉ちゃんとお話がしたいんだけど、いいかな?」


「うん」


「ありがと! 僕たちの居場所はそっちでわかるかな? 僕たちは離れられないから、二人に来てほしいんだけど」


 声の方向はなんとなくわかる。


 アランを見ると彼も頷く。


「うん、わかる」


「それじゃあ、待ってるね! 白い家だよ。街の真ん中の方には行かないでね、そっちじゃないから」


 それで、通信は終わった。


「どうしよう?」


「断る理由もない。エミーリアがいいなら」


「うん、私も二人に会いたいかも。私よりは若そうかな」


 今まで会った魔術師の中では一番陽気な声だった。


「街の真ん中には行かないで、というのが気になるが」


「それは、うーん、会って聞けばいいかな」


「そうだね。エミーリア、場所は君は探すように」


「え、私? アランが連れて行ってくれるんじゃないの?」


「これも修行だ」


「でも私は感知結界も大きなのは張れないし……」


「方向はわかっているのだから、歩きながら目を使う。感知結界の中で感知結界を張るのはよくない。外側の感知結界を破壊してしまいかねない。それは彼らが望むことではないだろう」


「目も……」


 私はまだはっきりと魔力や魔素の流れを掴むことができない。


「私の力を貸す」


 手を繋いだままアランは私の正面に立ち、私の額に口づけをした。


「目を開けて。もう一つの目だ」


 アランが離れる。


 頭の後ろの方がチカチカした。


 視界にかすかに光る粒が広がる。これが魔素だ。ここは街中だから前に見た自然の森よりも魔素が少ないように思う。それよりも大きな粒がたくさんある。街を歩いている人の中にある。これが魔力だ。魔術師ではないとしても、普通の人間にもわずかながら魔力がある。


「いつでもこの状態になれるように。常に、でなくてもいい。数をこなせば君にもできるようになるだろう。寝る前と朝起きたときにするようにしようか。これまでの経験から、他の魔術師から見て私たちは二人とも魔術師とみなされているようだが、君が単独ではほとんど魔術が使えないことと、私が君の魔力に依存していることは弱点になり得る」


「弱点?」


「悪意のある魔術師に対して、だ。キガサワも気がついていなかったが、私が君から離れて動き続けられるのは、そうだな、魔術を一切使わないという条件でも、一週間がせいぜいだろう。それ以上は持たないし、魔術を使うのならそれこそ一日でも限界が来る。私たちに害を為そうとすれば、二人を引き離せばいい。そうすれば君はただのお嬢様だ」


 アランの言うことはもっともだ。


「早く色々使えるようになる」


「そうだね、慌てることはないが」


 ポラリスの声がした方向に歩いていく、通りの向こうに他の人より大きな魔力の塊があった。感覚的には薄い水色のような色だ。それも二つほぼ同じところにある。たぶんポラリスとカノープスだろう。


 空を見上げる。


 鳩だろうか、鳥が群れを成して飛んでいた。群れは街の中央に向かっている。


「あれかな」


 ポラリスが言っていた白い家がある。


 玄関の前で戸を叩く。


 ドタバタと音がして、戸が開いた。


「ようこそ!」


 魔術通信で聞こえた明るい声がした。


「あなたがポラリス?」


「そう、僕がポラリス」


 私が聞いて屈託のない笑顔でポラリスと名乗った少年は答えた。私より背が低い、肩まである黒髪に子犬のような表情で少女のようにも見えた。


「お兄ちゃんたちは?」


「私はアラン、彼女はエミーリア」


「お兄ちゃんたちは魔術師でいいんだよね?」


「そうだよ」


 私がアランの代わりに答えた。感知結界で私たちを捕捉したのに不思議な言い方だった。


「よかった。僕は目がそんなによくなくて、自信がなかったんだ。でもカノープスが間違いないって言うから。お兄ちゃんたちは、お兄ちゃんが師匠?」


 ポラリスがアランに聞き、アランが返す。


「そう。だけど夫婦だ」


 それにポラリスは目をくるくるさせて驚いているようだった。


「そうなんだ! でもそれって珍しいの?」


「えっと、どうだろう」


 私がアランを見る。


「そうだね、珍しくはないかもしれない」


「へえ、あ、ここじゃなんだから、二階に上がってよ、カノープスもいるから」


 そう言ったがもうポラリスは背を向けて階段を上がっていった。

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