第九話 双子の星 ①
二人並んで手を繋いで歩き続ける。言葉数は少ない。アランが何を考えているのか私にはわからない。手は繋がっていて、魂があるとすればそれすらも繋がっているのに、アランのことはわからない。私のことは、もう大体話した。たった十六年の歴史だ。今度はアランの番だけど、言葉を発するのであれば私からだろう。
私の育った街を離れてアランの街へ向かうことにした。幸いにしてか、私たちが持っているのはこれからの時間だけだ。
アランの街は東方大陸を見ることができる海辺の街だという。私のいたところとは中央都市を点にして正反対にある。
二つの街を転送門で渡り、そこから次の街へと徒歩で移動していた。中央都市をぐるっと迂回するような経路だ。たまたま中央都市に直接向かうルートがなかったからだが、なんとなく近づかない方がアランにとってもよいのでは、と思った。
「積極的に避けるつもりはないよ」
それを察したのかアランが言った。
「でも」
「確かに私の在籍記録がどうなっているのかはわからないから、この格好で中央都市をうろつくのはあまり良い選択肢だとは言えない。さすがにまだ生きているとは思っていないだろう。エミーリア、君が行きたいのなら寄ってもいい」
「私は……、用はないけど……」
「行ったことは?」
「ううん、一度もないよ。私たちの頃にはまだ転送門もなかったし。お父様は行ったことがあるみたいだけど、その、私のことで」
十歳のときに私に魔術師の才能があることがわかると、両親は方々に手を回してその才能を開花されるべく魔術師を家庭教師として呼び寄せた。大体は長くても数ヶ月で匙を投げ出してしまったが、その中には国家魔術師もいたはずだ。私がアランの服装に見覚えがあるのもそういった理由からだ。
「最後の手段、ってお父様が言っていた」
それを聞いて、アランはふっと笑った、気がした。
「君の父親が魔術師協会に紹介を依頼していたのならそう言うかもしれないね。最後の手段、というのは、私にとっても最後の機会だった、ということだ」
「魔術師協会……」
聞いたことがある。中央都市にある、主に国家魔術師が所属して、それらをとりまとめている組織だ。彼らの中にも貴族はいるが、貴族とは独立して権力を持ち、国家に対して意見をすることができるらしい。
国家の政治形態は私はあまり興味がなかったが、貴族院、魔術師協会、それに騎士連盟、が政治の中心にいることは知っている。
「アランは、どうしてあの城にいたの?」
「……魔術師協会に追放、いや、身分が剥奪されたわけではないから国家魔術師のままだが、中央都市の研究室が解体されて代わりに与えられた場所だった」
「追放? どうして?」
「たいした理由ではない。よくある話だ。協会の上層部がちょっとしたことで刷新されて、それまで中心にいたいくつかの研究室が潰されてそこに属していた国家魔術師がちりぢりになったんだ。地方の街や村に派遣と言う名目で左遷された者もいる。協会にとっても体裁が悪いから国家魔術師の身分だけは残して、政治に影響を与えないような場所に飛ばしたんだ」
「アランはそこの、中心だったの?」
「いや、私はそうではなかった。たかだが十年と少ししかいなかったからね。どちらかというと、私の師匠がそうだった。彼女は政治自体に興味はなかったが、彼女は優秀だったから上層部にも目をつけられていた」
「彼女……、アランの師匠は女性だったの?」
「ああ、そうだった。それは言っていなかったかな」
「うん」
「エチカ師匠はその流れを事前に察知して早々に雲隠れした。その煽りを受けて私が査問委員会にかけられて、あの辺鄙な城に追いやられたというわけだ。まったく、師匠の逃げ足の速さと言ったら、むしろ尊敬に値する」
アランが昔を懐かしむように笑顔で言った。
「その、アランの師匠も魂の研究をしていたの?」
「そう、私は彼女の研究を受け継いだに過ぎない。もっとも、個人的に興味はあったから文句はなかったが」
「大罪人って……」
「協会の言った方便だよ。追放するには何かの理由がないと困るからね。魂の研究をしている魔術師は私たち以外にいなかったし、私たちのしていたことを『倫理的』に咎めるにはちょうど良かったんだ」
「アランたちは、何をしていたの?」
ルネが言っていた。
『死すべき者を死なせ、死にゆく者を死なせ、生まれてくる者を死なせ、そうでないあらゆる者を死なせ』だ。
アランが空を見た。思い出そうとしているのか。
「そうだな、何をしていたかと言われたら説明が難しい。ルネが言っていたのもある面では正しい。私たちは、観察をしていた。死に瀕した者、治療魔術を主たるする魔術師が手の施しようないと判断した病気や怪我の者を、死にゆくままに見届けていた。もちろん、治せるものなら治そうと努力はしていたし、いくつかの、今ではおそらく効き目がないとされているような薬も試した。その結果、死期が早まったものも確かにいただろう、だから『あらゆる者を死なせ』というのも嘘ではない」
なんとなく胸をなで下ろす。
「エミーリア、君が想像したものはすべてではない。私たちは、その死んだ者を切り刻み、魔力がどのように流れているかを調べようとした。君の良心に従えば認められないことかもしれない」
「そんなことは……」
「私が治療魔術を使ったことがあったね」
「ああ、うん、チェンミィ」
弾を受けたチェンミィを救うため、アランは治療魔術を使った。
「治療魔術が使えるということはね、つまりのところ、人体がどのような構成をしているかを熟知しているということだ。物質としての人体、魔力が流れている人体、その両方を理解している必要がある。だから治療魔術というのは高度な魔術に属している、それを修めるまでに必要なことが多いからね」
「そう、なの」
「魂の発見はされなかったが、それに至るまでの過程で多くの治療法が生まれた。まあ、その成果はもはや私たちではなく他人のものになっているだろうがね。だが誰が見つけたなどどうでもいいことだ」
最後の言葉はアランらしいと思った。






