第八話 変わるもの変わらないもの ⑨
「行きたいところがあるの」
ペトラにお礼を言って、私はアランとお屋敷を出た。私が先導してアランを連れて行く。ペトラの部屋から見えたものを目指す。家が集まった区域を抜けて、畑を抜けていく。
アランと手を繋ぎながら、そこまで歩く。
目的地まで来て、その木陰に入って私が見上げる。
「これが?」
「そう、これが見たかったの」
残りわずかなピンク色の花びらが上から振ってくる。
「この木、知ってる?」
「いいや」
「この木は桜って言うの、私が生まれたときにお父様が東方から運ばれた小さな苗木を買ってここに埋めてくれたの。私が十六歳になる頃にはもう結構大きくなっていて、春には花を咲かすようになってたけど、百年後にもまだあるなんて。こんなに大きくなるなんてことも知らなかった」
私が両手を広げても一周できないほどの大きさだ。
「この木はちゃんと成長していたんだね。私がいなくても時を刻んでいた」
アランは、それがどうした、とでも言いたそうな顔をしている。
「この下にね、私は宝箱を埋めたの。十歳の誕生日に。いつか私が大人になって、もっとちゃんとしたら、掘り起こしてみようって」
お父様と使用人のエルンストに手伝ってもらって穴を掘った。何を入れたかも覚えている。青い宝石のペンダント、木でできたおもちゃの犬、そしていつかの私へのメッセージカード。
「掘り起こしてみる? もしかしたら痕跡が残っているかも知れない」
アランの提案に私は首を振った。
「ううん、いい。もう根っこに絡んでしまってると思う」
あのときの根の近くだから今掘ろうとするとかなりの労力が必要になるだろう。
「それに、何があるかはわかってるよ」
「いいの?」
「掘り起こさなければ、それは私の思い出のまま。そうでしょ?」
「それは、そうだが……」
「私は何が起こっているかわからないし、それをできれば知りたいと思うけど、本当はこの方が良かったのかもね、過去を振り返ってももう仕方ないから。私は、私たちは、未来に飛ばされたと思えば、あとは未来を見ていればいいし」
「君がそれでいいなら」
「もちろん悲しいよ。知らない、じゃなくて、ない、のはやっぱり違う。でも、そう思っただけでも、この街に帰ってきた意味はあったのかも」
「そうか」
アランの前に立ち、背伸びをする。
頭の上に乗った桜の花びらを取る。
「アラン」
花びらでアランの鼻をくすぐって、頬に手で触れる。
「次はアランの生まれ故郷に行きましょう。私にアランの過去を教えて、何があっても私は驚かないから、いいえ、驚くけどきちんと受け止めるから。それから、未来の話をしましょう」
私はもう一度背伸びをしてアランに口づけをする。
「いずれ死が二人を分かつまで、ね」






