第八話 変わるもの変わらないもの ⑦
私は目を開ける。
柔らかいベッドの上にいたはずなのに、そこは私が知っている街から少し離れたところにある草原だった。頬を撫でる風が心地よい。空には雲一つないのに、暑すぎるということもない。左側を見る、そこにいるはずのアランはいない。
立ち上がって周囲を見渡す。遠くに街の家々が見える。
反対側、草原に木のテーブルが置かれていた。
そこに誰かが座っている。
私はテーブルに向かって歩き出す。
遠くにあるようで、とても近いようでもある。
距離が詰まっていって、姿がはっきりとしてくる。
椅子に座っているのは少女だ。
「ここは……」
テーブル越しに彼女に問いかける。
彼女は白いワンピースを着て、白い腕をテーブルの上に置いていて、目を閉じている。
髪は絹のような細い白で地面につきそうなほど長い。
「世界の狭間。どこにでもあるのに、どこにもない場所。上もなく下もなく、前もなく後もなく、魂以外の何者も存在しない場所」
抑揚もない声で彼女が言った。
「あらゆる者が知っているのに、誰も彼も何も知らない場所」
「あ、あなたが」
直感があった。
彼女が、何かをしているのだと。
「私は何もしない。何もできない。あらゆる力は、何もしないためにある」
私の思考を読み取ったかのように言う。
テーブルの上に杖が置かれていた。
杖があるということは、彼女は魔術師だということだ。
いや、この杖には見覚えがある。
これは、私の、杖だ。
「まだ時は来ていない」
彼女が言って、目を開けた。
赤い、燃えるような瞳。
私と同じ。
「さようなら、エミーリア」






