第八話 変わるもの変わらないもの ⑤
私たちは宿屋を出て教会に向かった。教会も私の知っているもので、何も変わりがない。
「あのう、すみません」
教会の扉を開けて、中に入った。教会の広間も覚えがある。
やや間があって、奥の部屋から人が出てきた。
「どなたでしょうか?」
神父さんだ。壮年で、見た目は五十代くらいに見える。神父さんも代々街にいるはずで、使用人のエルンストと同じく見覚えのある顔をしている。
「私たちは旅の者です。彼女の先祖がかつてこの街に住んでいたようで、それが本当なのか知りたいと思いまして」
アランが当たり障りのない言い方をした。その方が通りがいいだろう。
「そう、ですか。そうですね、住民名簿がありますので、それを確認すればわかるかもしれません。どのくらい前ですか?」
アランが私を見て、確認するように一度頷いた。
「百年前ほどです。そのときの名簿がありますか?」
「あると思いますよ。それにしても古いですね、あなたたちはどこから来たのですか?」
「ああ、ええ、中央都市から来ました」
「わざわざこのために中央都市から来たのですか?」
「色々と街を回っています。転送門を使いながらですが」
「旅人も今時は珍しいですね、特にこんな辺鄙なところなんて。ちょっとお待ちください」
神父さんがそう言って出てきた部屋に戻っていった。
「これで私の名前があれば、私がいたことになるよね?」
アランはそれに返さなかった。
少しして、神父さんが戻ってきた。手には分厚くて大きな本を抱えている。
「これですね、私の祖父が書いたものです」
台に本を置いて、それを広げた。
「ええ、と。まず確認したいのですが、この街の領主の名前はなんと言いますか?」
アランの質問に、神父さんはちょっと戸惑っているようだった。
「この街はモール家が領主です」
「百年前もですか?」
「私の知る限りは……。それが何か?」
「いいえ。書かれているのもそうですか?」
何を当たり前のことを、と言った顔をしつつも、神父さんは名簿をめくってくれた。その中の一ページを指し、私とアランがそれをのぞき込む。
「ここに、モール家の当時の領主の名前が書かれています」
神父さんの言うとおり、モールと書かれている。
アランがモールと書かれた部分のインクに指先で触れた。
「最近加えられたものではない」
インクの古さを確認したのだろう。
「それはそうですよ。私もこれをきちんと見るのは初めてですし、ずっと部屋の隅にあったんですから、誰も触っていないと思います」
よく見ると本の外側にはホコリがついている。神父さんの言うことは正しいのだろう。
「ベルクグリーンという名前はありますか?」
「ベルク、グリーン」
神父さんがそこから何枚かページをめくった。
百年前なら私が生まれたくらいの時なので、誕生として名前が載っているはずだ。
「そうですね、ここには書かれていないようです」
「ベルクグリーン以外に、エミーリアという女性がいたことは?」
「いないようです。それが先祖の名前ですか?」
「ええ」
「そうですね、ここに書かれていないようであれば、やはりいなかったのか」
「そんなわけない!」
「……であれば、何かの事情があって記載されなかったのか。いまとなってはわかりませんが」






