第八話 変わるもの変わらないもの ④
「少しは落ち着いた?」
ベッドに腰をかけた私にアランがお茶を渡してくれたので手に持つ。
「うん……」
私たちは私の記憶の通り、街の宿屋まで行った。何も変わらない、まさにその場所に宿屋があった。それどころかこの宿屋の主人にも覚えがある。代々続いている宿屋なら、私の記憶の人物の子孫なのだろう。
「さて、と」
アランが私の正面にある椅子に腰を掛けて、私をしっかりと見る。
「モール、と言う名前は知っていた?」
「ううん、私がいたときに街にそんな名前の人はいなかったと思う」
すべては知っているわけではないが、領主であるということはそれなりの身分であるように思うし、この街では私の家以外にそのような家はなかったはずだ。
「なるほど」
アランが頷く。
「状況を整理しよう。エミーリア、君の言っていることはおそらく正しい」
「えっ!?」
「君がこの街から来たこと、この街の領主が君の父親であったこと、これは私の記憶とも一致する」
「それならなんで」
「それがわからない」
「何か魔術を使ったとか?」
「その可能性はないとは言えない。可能性として考えられるのは確かにそれしかない。ただし、認識魔術で極少数の記憶を書き換えるならまだしも、これはまるで、記憶ではなく歴史そのものが書き換わってしまったようだ。それはもう個人の魔術が為しえる領域ではない。少なくとも私の知っている魔術にはない」
「そんな」
そんなことができるのはおかしいと思うが、魔術に精通しているアランもそれは難しいと言っているので、その直感は正しいのだろう。
「複数の魔術師が同時に行ったとしてもやはり同じだ。記憶は操作できても、記録自体はどうしようもない。もちろん、徹底的に、物理的に記録を廃棄するということはあるかもしれないが、痕跡はどこかに残るはずだ」
「痕跡……、そうだ、教会に行けば!」
アランの言葉で思い出す。
「教会?」
「この街の住民は教会の名簿に名前が書かれているの。家ごとに、いつ生まれたとか、いつ亡くなったとか、外から来た人はいつから住むようになったとか、そういうのが書かれている名簿があるの。私が昔見たときにも、百年以上前からあったから、あれがちゃんと残っているならたぶん私の家のことも書かれていると思う」
教会はかなり昔からある。この世界の創造主について信仰をしているが、実際のところは領主とは別に街を管理するための施設として機能している。
「そうか、それなら向かってみよう。一つ一つ潰していくのがいい」
「うん」






