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【5/2コミカライズ一巻発売】【完結保証】およそ100年幽閉されていた魔術師夫婦は世界を巡る  作者: 吉野茉莉
第八話 変わるもの変わらないもの

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第八話 変わるもの変わらないもの ③

 屋敷は私の記憶のままだった。二階の私の部屋だった窓を見る。カーテンがかかっている。


 門は開きっぱなしだったので中に入る。周囲には誰もいないので扉を叩く。しばらくして扉が開いた。


「どちら様でしょうか?」


 中からは伏し目がちな少女が現れた。彼女は不安そうな顔で私たちを見た。屋敷の中も私の記憶と同じだ。奥に二階へと続く階段が見える。


「私はベルクグリーンの者です」


「ベルク……グリーン?」


 少女は街で会った人と同じような反応をしている。


「あの、すみません、あなたは……」


「私、ですか? ここはモール家です。私はペトラ、ペトラ=フォン=モール」


 彼女がおどおどしながら答えた。


 聞いたことがない。


 アランがこちらを見ているので私は首を振る。それで意図は伝わったみたいだ。


「この街の領主の家はこちらですか?」


 アランの問いかけに彼女は頷いた。


「どのくらい前からですか?」


 彼女は不思議そうに首を傾げる。


「どのくらい? おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん……、とにかくずっと前からです」


「そんな」


 そんなことがあるわけがない。彼女が思い違いをしているだけだ。


「ベルクグリーンの名前を聞いたことは?」


 小さくふるふると彼女は首を振った。


「すみません。お父様なら知っているかもしれませんけど、しばらくお母様と中央都市に行っています。

今は私だけです」


「お嬢様?」


 私たちの背後から男性の声がした。


「あ、ハンス。良かった。この人たちが……」


 彼女がうわずった声で助け船を出している。


「どうされました?」


 私たちを横切り彼女の後ろに男性が立った。


「えっと」


 細身の老齢の男性だ。その険しい顔つきになんだか見覚えがある。


「エルンスト?」


「いえ、私は……」


「エルンスト=クライバー!」


 そうだ、この顔はいつも私に小言を言っていた使用人のエルンストだ。


「確かに私はクライバーですが……、いえ、エルンスト……、私の曾祖父がそのような名前だったと」


「やっぱり! 私、エミーリア! エミーリア=フォン=ベルクグリーン! あなたの、そう、エルンストが私の使用人で、ベルクグリーン家の使用人で……」


「いえ、私どもクライバー家は代々このモール家の使用人ですが」


「でも、ベルクグリーンの……」


「そのような方はこの街にはおりませんが」


「あのね、ハンス、さっきからこの人が変なこと言っていて……」


「違うの、私はここの家の、ううん、ずっと前に住んでいて」


 頭が混乱してくる。


 私の記憶が、全部偽物みたいに扱われている。


 でも、この街はあって、このお屋敷もあって、使用人も同じで。


 何が本当なのかわからない。


「エミーリア、一旦落ち着いて、出直そう」


 アランが私の肩に触れる。


「でも、でも」


「いいから。戻ろう。この街に宿屋は」


 ハンスという男性にアランが聞いたのを遮る。


「知ってる! だって、私の、私の街だから!」


「わかった。エミーリア、君の街なら、君が案内してくれ」


「……わかった」


「失礼しました。私たちは宿屋に行きますが、あとでまたお伺いするかもしれません」


「それは構いませんが……。国家魔術師様なら旦那様が歓迎されると思いますが、あいにく出かけておりまして」


「ありがとうございます。それでは。行こう、エミーリア」


「うん」

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