第八話 変わるもの変わらないもの ③
屋敷は私の記憶のままだった。二階の私の部屋だった窓を見る。カーテンがかかっている。
門は開きっぱなしだったので中に入る。周囲には誰もいないので扉を叩く。しばらくして扉が開いた。
「どちら様でしょうか?」
中からは伏し目がちな少女が現れた。彼女は不安そうな顔で私たちを見た。屋敷の中も私の記憶と同じだ。奥に二階へと続く階段が見える。
「私はベルクグリーンの者です」
「ベルク……グリーン?」
少女は街で会った人と同じような反応をしている。
「あの、すみません、あなたは……」
「私、ですか? ここはモール家です。私はペトラ、ペトラ=フォン=モール」
彼女がおどおどしながら答えた。
聞いたことがない。
アランがこちらを見ているので私は首を振る。それで意図は伝わったみたいだ。
「この街の領主の家はこちらですか?」
アランの問いかけに彼女は頷いた。
「どのくらい前からですか?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
「どのくらい? おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん……、とにかくずっと前からです」
「そんな」
そんなことがあるわけがない。彼女が思い違いをしているだけだ。
「ベルクグリーンの名前を聞いたことは?」
小さくふるふると彼女は首を振った。
「すみません。お父様なら知っているかもしれませんけど、しばらくお母様と中央都市に行っています。
今は私だけです」
「お嬢様?」
私たちの背後から男性の声がした。
「あ、ハンス。良かった。この人たちが……」
彼女がうわずった声で助け船を出している。
「どうされました?」
私たちを横切り彼女の後ろに男性が立った。
「えっと」
細身の老齢の男性だ。その険しい顔つきになんだか見覚えがある。
「エルンスト?」
「いえ、私は……」
「エルンスト=クライバー!」
そうだ、この顔はいつも私に小言を言っていた使用人のエルンストだ。
「確かに私はクライバーですが……、いえ、エルンスト……、私の曾祖父がそのような名前だったと」
「やっぱり! 私、エミーリア! エミーリア=フォン=ベルクグリーン! あなたの、そう、エルンストが私の使用人で、ベルクグリーン家の使用人で……」
「いえ、私どもクライバー家は代々このモール家の使用人ですが」
「でも、ベルクグリーンの……」
「そのような方はこの街にはおりませんが」
「あのね、ハンス、さっきからこの人が変なこと言っていて……」
「違うの、私はここの家の、ううん、ずっと前に住んでいて」
頭が混乱してくる。
私の記憶が、全部偽物みたいに扱われている。
でも、この街はあって、このお屋敷もあって、使用人も同じで。
何が本当なのかわからない。
「エミーリア、一旦落ち着いて、出直そう」
アランが私の肩に触れる。
「でも、でも」
「いいから。戻ろう。この街に宿屋は」
ハンスという男性にアランが聞いたのを遮る。
「知ってる! だって、私の、私の街だから!」
「わかった。エミーリア、君の街なら、君が案内してくれ」
「……わかった」
「失礼しました。私たちは宿屋に行きますが、あとでまたお伺いするかもしれません」
「それは構いませんが……。国家魔術師様なら旦那様が歓迎されると思いますが、あいにく出かけておりまして」
「ありがとうございます。それでは。行こう、エミーリア」
「うん」






