第八話 変わるもの変わらないもの ②
「どういうことだろう?」
お屋敷に向かって歩き出す。
「領主が変わった、というだけではないみたいだ」
「そうだよね、さっきのおばあちゃんが小さい頃にはまだお父様がいたはずだし」
「すぐに変わったという可能性は?」
「うん、それはないこともないけど。普通はないことだと思う。親戚もいたし、お父様のことを考えてもおばあちゃんが知らないってこともないと思う」
「私が知っているのは戦争があったくらいだ」
「それで何かがあった?」
可能性があるとすればそれくらいだろうか。
「わからない。ケーリュの家で読んだ本ではそれほど長い間は戦っていなかったはずだ。たかだか数年で終わって我々の国が優勢で和睦を結んだようだ。国境線も変わっていない」
ケーリュは最初の街で会った魔術師だ。そこでアランはいくつかの魔術を含む歴史の本を譲り受けていた。
「魔術師はかなりの人数が死んだようだ。無能な指揮官がいたのだろう」
アランが苦々しい顔で言った。
アランが城で最初に話したように、戦争には魔術師が投入されたのだろう。当時はキガサワたちのように他人にかける認識魔術はそれほど優れていなかったはずだ。
「私が指揮を執っていれば死なない命もあった」
「私を使ってってこと?」
元々私に実験をすることにした目的は、アランが魔術師たちの指揮官となり、私の魔力を戦争の道具として利用するためだった。
「そう」
アランが認める。
「君の無限にも近い魔力をコントロールできさえすれば、おそらくは制圧できた」
「もしそうしたら、私が人を殺していたってこと?」
「それは……。そうだね、間接的に考えればそうかもしれない。君の魔力を起点にして私が魔術を使うわけだから、相手にとってみれば二人ともそうだろう」
「そう……。よかった」
「そうだね」
アランは簡潔に返した。
「私じゃなくて、アランも、人殺しにならなかった」
「……そうだね」
アランが繰り返す。
正直な気持ちだったが、アランが思っていることもこれだけ一緒にいれば少しだけわかる。自分がやらなくても、直接手に掛けなかったとしても、誰かが近いことをしたはずで、その誰か、に責任が移動しただけで、自分ならもっと少ない犠牲でなんとかなったはずだと思っている。それは傲慢ではないし、自身が能力のある魔術師であることそのものの責務だと思っているからだ。
「アランは……」
私はずっと思っていたことを口にする。
今なら大丈夫だと思った。
「どうして私と婚約なんか? 実験したいだけならそうはならないでしょ」
「それは……、どうだったかな、もう八十三年も前の話だ」
「……はぐらかして」
アランが苦笑いをした。
「私にそれだけの価値があったってこと?」
「そうだね、今も十分な価値があるよ」
「うーん」
うまく言いくるめられている。
「エミーリア、君の方こそ」
「えっ私? 私は……」
どうだろうか。
はっきりと言えるだろうか。
「君にはまだ選択権がある」
「でもそうしたらアランは」
「私はまだ正しい死を捨て切れていない。それが正直なところだ」
「そんな、こと、言わないで」
「もちろん、君が望むのなら私はずっといるよ」
「私は、あなたに、自分で生きることを望んでほしい。私のことじゃなくて、あなたが自分のものとして選択してほしい。それが魔術師、ということでしょ?」
アランの手を強く握る。
「君に言い返されるとはね」
アランが手を握り返してくれた。
「そうだね、君といると退屈しないよ」
アランが素っ気なく言った。
「だから……」
「君が言っているのはこの家のことかな」
アランが視線で前を向かせる。
「うん……」






