第七話 魔術師不要 ⑨
キガサワが言い切り、私たちを見た。
彼女が発した疑問の返しを待っているようだ。
「私はっ……」
当然、帰る場所がある、と言いかけて声が詰まってしまった。
その場所は近い。しかし、それはかつて私が住んでいたというだけではないのか。十六年の間、ただ『いた』だけだ。そこに何があるだろうか。何があれば満足するのだろうか。そこに何がなくてはいけないのか。家族はもういないだろう。思い出はある。半分は魔術師になるために生きていた。何者かになるために私がいた場所。何者にもなれなかった場所。良い思い出ばかりではない。でも行けばわかる。城を出てからそう思い込んできた。帰る場所があるはずだ、と。
「逡巡するだけの余地はあるということだね」
キガサワが言った。
これまでの道中で何人かの魔術師に出会った。彼ら、彼女らの中には、自分たちが住む街に誇りを持つ者もいた。街のための行動し、魔術を使い、そして死んでいった。それに比べて私には何があるだろうか。
「私たちは彼女の故郷まで帰ります。それからのことはそれから、私たちで決めます」
アランが代わりに返してくれた。
「それが望まない結果を生むとしても?」
キガサワはアランを見ず、私を見つめる。
アランが後押ししてくれたのだ。私もそれにならわないといけない。
「はい。魔術師は、自分で選択するものです。それが、私が魔術師であることの証明です」
「そうか、この国の魔術師は恵まれているね。そのようなことを一度も考えたことなどなかった」
「この国の魔術師がどうかは関係ありません。私が、私の意思としてそうします」
「若いね。若いのはいいことだ。それとも、良い師に出会えたからかな。だがいずれ君にもわかる。選べないときがやってくる」
「はい、それでも、それは今ではありません」
キガサワが足を組み直した。
「まいったな。話し合いによっては無理矢理君たちに言うことを効かせようと思ったが、それでは我々がされたことと同じになってしまう。今さらながらそれに気がつかされたよ」
「あの、彼らは、本当に自分の意思でそこにいるのですか?」
俯いたままの彼らを見る。
「自由意思の定義による。人間には本当に自由意思など存在しているのかを問わなくてはならない」
キガサワは淡々と言った。
「彼らにも魔術をかけているのですね?」
アランが確認をした。
キガサワが頷く。
「彼らの意識を操作することで魔力を最大限引き出している。彼らが三十年前に私に託した通りだ」
「今もそう思っているかどうかは?」
「さてね、今となってはそれを確かめる術はない」
「魔術を解くというのは?」
「もうすでに『耐用年数』は過ぎているのだよ。今さら解いたところでまともな人間には戻れない」
「それでも……」
「この街を犠牲にしても?」
「それは……」
「彼らが望むことではない。最初に決めたことを今さらそうですかと終えるわけにはいかない。意固地に思えるかもしれないが、それが大人というものだ」
キガサワの左側にいた魔術師がぴくりと動いた気がした。
何か言おうとしたのかもしれないし、何か言ってほしいと思った私が見せた幻かもしれない。
「これからどうするつもりですか?」
キガサワがまた笑う。
「ギリギリまで粘って、次の絶望した魔術師を待つことにするよ」






