第七話 魔術師不要 ③
二人で街を歩く。
街は活気があり、人々が思い思いに歩いていた。衛兵の言っていた通り、街の人、特に年齢の高そうな人はアランの姿を一瞬見て、ぎょっとしているようだった。だけど、わざわざ何かをしてくるようではなかった。
私たちは衛兵に言われた宿屋に行き、二階の部屋へと上がった。
荷物を置き、一息つく。
「よかったね」
アランが私の手元を視線で刺した。
「え、ああ、うん」
箱をテーブルの上に置く。
「お茶を淹れるね」
さっきカウンターでもらってきたお茶を二人分カップに入れる。
箱を開けて中を一つ摘まむ。
香りを嗅ぐ。口に入れるとちょっと刺激的な味が舌に乗る。ジンジャーとシナモンが練り込まれたクッキーだ。私が昔々に来たときに食べたものと同じだ。時間が経っても残っているというのは嬉しい。
お茶で口の中を洗い流す。
「アランはどう思う?」
「ああ、エミーリアは」
「私は、よくわからないけど。できるの?」
「できないこともない、と思うが。しかし、四人というのはどうも納得がいかない」
「そっか」
私とアランが言っていたのは、たった四人で街と戦った魔術師のことだ。二百人に同士討ちをさせる魔術を使った。一人に換算しても四十人、そんなに同時に魔術をかけることができるだろうか。
「私の知らない期間に、魔術の研究がそういった方向に発展したのだろう、と思うしかない。だとすれば、嘆かわしい」
アランがカップを手に取る。
「中央都市に行ってみる?」
「いや、その必要はないよ。特に用もないしね」
「うん」
中央都市は彼の研究を咎め、追放した。今さら向かいたくはないということだろう。
「あの、アラン」
私はずっと考えていたことを言おうと口を開けた。
そのときだった。
トントン、とドアがノックされる。
「どうぞ」
私が言うと、ゆっくりとドアが開いた。
「お休みのところ失礼します」
部屋の中に青年が入って一礼をした。
「アラン様、エミーリア様ですね」
「はい」
「お二人とも魔術師で間違いありませんね」
「そうですけど……」
青年は一度頷いた。
「監督官の使いで来ました。お二人に是非お会いしたいと」
「監督官?」
「え、ああ、この街を治めている監督官です。他でどう言うのか知りませんが……」
領主のようなものだろうか。
「三十年ほど前からの監督官です」
「三十年も?」
「私たちがその、前の中央都市との戦争から復興しようとした時からです。私たちは魔術によらない街作りをすべきだと言い、それから魔術師を迎えることなくここまで来ました。中央都市からの派遣も断っています」
「それがどうして私たちに? 魔術師が嫌いなんじゃないの?」
「そこまでは私には……。」
「それに、国家魔術師なんて」
横にいたアランを見る。アランは難しい顔をしていた。
「現役ではないと聞きました。そうですね?」
「ああ」
「それが何かあるかもしれません。会っていただけませんか?」
「エミーリア、君はどう?」
「別にいいけど……」
「ありがとうございます。ええ、と食事の用意もするそうなので、またあとでお伺いします。ああ、ええ、と、お召し物はそのままで気にされなくて結構です。あまりそういうことにこだわりのない方ですので」
青年はまた深くお辞儀をして去って行った。
階段を降りていく音が消えてしまってから私がベッドに腰をかける。
「食事付きだって!」
「嬉しそうだね」
「だって、今まで魔術師で歓迎されたことなんてないじゃない」
これまでの旅を思い返す。各地に魔術師はいたが、歓待を受けたとまでは言えないだろう。むしろ煙たがられたという方が近い。
「それはそうだが……」
「アランが嫌なら私だけでも行く」
「そこまでは言っていない。だが、おかしいと思わないかな」
「どうして?」
「この街の人間は魔術師に対して好意的ではないはずだ。今までの街よりもはるかにはっきりとした拒絶の態度を持っている。原因はわかるし、その扱いをされるのも当然と言えばそうだ」
「もういいかなってこと?」
「魔術師がいない街が要請をした場合、必要であれば中央都市は魔術師を派遣する。小さい村ならわからないが」
アイリーンの村には魔術師は派遣されなかったはずだ。
規模と重要性の問題だろうか。
「この街なら要請は通るだろうし、むしろ中央都市は常駐したがるはずだ。それなのに要請をしていないどころか、街の方から断っている」
「断ることってできるの?」
「さあ、大抵の街は魔術師がいて不利益になることはないし、中央都市との結びつきはあるにこしたことはないと思うからね。それにここみたいに真っ向から逆らおうとする街もそんなにないよ。中央都市が争って勝っているなら無理にでも送り込んでいると思うのだが」
「ふーん、じゃあその監督官に聞いてみればいいじゃない」
「そうだね」






