第六話 救援、もしくは罠 ⑪
「そ、そうか、そういうことだったのか」
突然、ルネとは違う口調の声がした。
「ニコ!」
ニコだ。
「あ、頭の中で聞いていた。今は、俺だ。俺がここにいる。頭の中のあいつは奥にいる。逃げようとした俺を誘導していたのはあいつだったんだな。どおりであの鳥がいなくならないわけだ。アラン、あんたのことは知らないが、あいつの言った通りなら、あんたの専門なんだな。でも、あんたにもどうもできない」
「一人の人間に他人の魔力が混ざる例がある。意図的にできるというよりも、事故のような偶発的な事象だ。魔力が混ざる、というのは、青い色水に赤い色水を無理矢理混ぜるのと同じだ。混ざったものは溶け、そしてそれは青でも赤でもない色水になる。時間が経てば元の青の部分が多くなり赤は薄まっていくが、それでも赤の要素がなくなることはない。これは人間にとっては致命的な問題だ。大抵はその前に意識が混乱をして自分がなくなってしまう」
「できないんだな?」
「おそらく。私には信じられないが、ルネが言っていることが本当なら、君はルネに乗っ取られる形になるだろう。さっきの説明でいえば、透明な水に黒を注いで全部を黒にすることができる、と言っているわけだ」
「……そうか。わかった」
ニコが立って、窓に近づいた。
「手間をかけて済まなかった。二人は島の外に戻ってくれ」
「どうしたの、ニコ」
「どうもしない。このままなら、俺はあいつに乗っ取られるってことだろ。そうなったらあんたらに何をするかわからない。話を聞く分には手荒なことはしないだろうが、それはわからない。俺と同じく閉じ込めるくらいはするかもしれない。それにあいつは魂とやらを伝播させることができるんだろ」
振り返ったニコが私たちを見た。やつれた顔はそのままだったが、声に力がこもっていた。
「あいつの好きにはさせないさ。それが単なるちっぽけな反抗でも、だ。俺が俺でいられるうちに、俺はすべきことをする。俺だって魔術師だ。俺がどうすべきか、それは俺が決める」
覚悟をした人間の顔だった。
「わかった」
「アラン……」
「ニコの言う通り、私たちにはどうすることもできない。だから、ニコの意思に従う。今のうちに湖を渡りきろう」
「そうしてもらえると助かる」
アランが立った。
「もし、あんたらが中央都市に行くことがあったら、うちの母親に……、いやなんでもない。何も言う必要もない。あんたらだけは俺が生きていたことを覚えていてくれ、それでいい」
「うん」
「『互いの選択に、最良の祝福を』。さようなら、アラン、エミーリア。あんたらに会って、最後を決めることができて、それだけでもよかった」
「そんな」
「あんたらのせいじゃないさ。さあ、行ってくれ」
ニコが笑顔で言った。






