第六話 救援、もしくは罠 ⑥(ニコの過去の視点)
「俺は中央都市で通信師をしていた。転送門ができたといっても、各街との連絡は通信魔術の方が速い。俺はいくつかの拠点で他の通信師とやりとりをする仕事をしていた。アランは国家魔術師だから仕事はわかるだろう。俺だって国家魔術師になりたくて中央都市に来たが、結局才能がなかった。まあ中央都市で職が見つかっただけ運がよかった。目はあまりよくなかったが、耳はよい方だったから、それが役に立った」
ニコが通信師たちが詰めている部屋にいる。
「たまたま夜だった。他の人間もすでに仕事をやめていなくなっていた」
帰ろうとする仲間に軽く手を振る。
「俺は緊急時に備えて待機していた。とはいっても夜間に通信があることは稀だから、俺はベッドに転がって本を読んでいた」
ベッドでニコが本をめくっている。
「通信それ自体は事前に合って決められた範囲に魔力を調節してそこで行う。その日はとりわけ静かなものだった。別に寝ていても緊急時には頭に鳴り響くから寝ても誰も文句は言わないだろうと思っていた」
本を閉じて、目も閉じる。
「そこで、頭の奥にかすかに何かが流れた気がした。取り決めをしている通信師の通信ではもっとはっきりしているからそうでないことはすぐにわかった。ただ向こうでトラブルが起きている可能性もあったから、俺は跳ね起きて自分の椅子に座った」
椅子に座ってトントンと机を叩く。
「しばらくまた通信が流れてくるか待った。通信はとても弱いものだとわかった。街の通信師の通信ではない。広域通信かと思ったがそれもどうやら違うようだった。どうやら他の魔術師間の通信を拾っているようだった。耳がいいとそういうこともある。マナーとしては褒められたもんじゃないが好奇心から俺は返答をせず、その通信を聞き続けることにした。それが間違いだった、無視して接続を切って寝ておけば何も起こらなかった」
腕を組み、椅子の背もたれに背を預ける。
「発信の場所が遠いことだけが最初からわかっていたが、他に奇妙なこともわかった。通信は、誰かに特定の相手に一方的に『呼びかけて』いるものだった。不特定の相手に広域通信をするのはわかるが、相手がわかっているのに全体に向けられているのは普通行わない。逆に発信者が何かを受け取っている様子もなかった。その時点で聴き取れたのは、こんな言葉だった」
ニコが前のめりになる。
「我は『参画者』だ。我の問いかけに答えたまえ。接続を請う。魂のすべてを通して、接続をする。我の問いかけに答えたまえ。接続を請う。魂のすべてを」
ニコが首を振った。
「相手はこれを繰り返しているようだった。正直、意味がわからなかった。参画者というのもここで初めて聞いた言葉だ。通信をしているというよりは、何かしらの魔術的な実験を行っているのではと思った。相手がわかっているのに広域に呼びかけているのはそうとしか考えられなかった。そこで俺は、間違って、そちらに魔力を流してしまった。呼びかけが止まって、多少の沈黙があって、通信主が発した言葉はこうだった。『予定外だが繋がった。それもいいだろう、伝播を開始する』」
ニコがしまったという顔をする。
「俺はすぐに接続を切った。この短時間なら相手も場所までは特定できないだろうと思った。俺は眠ることにした」
本を置いて横になる。
「次の日から俺はずっと頭痛に悩まされることになった。頭痛は続き、時折あの声で『伝播を開始する』という声が響いた。気がつけば俺は街を出て、声が出ない方法を探して色々な場所をさまようことになった。これが俺自身の意思かどうかもわからない。ただ、逃げる方向だけが決まっているようにも思ったが、俺自身抵抗することができなかった。そのうち、この湖まで来て、水上歩行で渡って島に来て、あとはご覧の有様だ」






