第六話 救援、もしくは罠 ⑤
「じゃあニコが外に出られないのって」
「あれは魔術師ではない。魔術師が動物を使役して監視しているんだろう」
「近くに魔術師がいるってこと?」
「それほど遠くではないだろう。やはりさっきの通信も聞いていると考えた方がいい」
私が扉に手をかけて引く。
アランが先に入った。
広間があったが暗い。窓が閉じられているようで、わずかな隙間から光が少し漏れているだけだ。扉から入る光と合わさって、埃が舞っているのが見える。
「ニコ!」
アランが叫ぶ。
広間に声が反響したが返答はない。
私が一歩部屋に入る。
「動かないでくれ」
背後から若い男の声がした。
喉に冷たい感触がある。
「ニコか」
「ど、どうして、ふ、二人いる」
ニコも戸惑っているようだった。
「アラン、手を下ろしてくれ」
顔を動かさず横にいたアランを見る。アランが杖をニコに向けている。前に見せた攻撃用の魔術が撃てる体勢だ。
「ニコ、二人いると言わなかったのはすまないが、こちらも他の魔術師が聞いているかもしれない状況ですべてを言えるわけではない。それに、ニコ、君を完全に信用しているわけでもない」
「そ、そう、か、そうだな、言われれば、そうだ」
「ニコを助けようと言ったのは彼女だ。私は反対だった。だから彼女に危害を加えないでほしい」
アランなりの説得だ。
「わ、わかった。一つ確認させてくれ」
「何?」
私がニコに答えた。
「あ、あんたら、『参画者』じゃないよな?」
「何だって?」
「参画者を知っているのか!? あんたら……」
「名前を知っているというだけだ。私たちは参画者ではない」
アランが冷静な声で返す。
「本当か?」
「本当だ。信じてもらうしかないが、少なくとも、わざわざ助けに来たということは理解してほしい」
「そ、そうだ、な。わかった」
ニコが私の首に当てていたものを離す。ナイフだ。
移動しながらニコが正面に立った。薄暗いなかでもニコは頬がややこけていて初対面でもやつれているのがわかった。
「わ、悪かった。助けに来てくれてありがとう」
ニコが右手で暗闇を指した。
「こっちに部屋がある。ここよりは明るい。ああ、そこで状況を、せ、説明したい」
そう言ってこちらの返答を待たずニコが歩き出したので、私たちもついていく。ニコが扉を開けて中に入る。一応他に誰かいないか気をつけながらアランに視線を送る。アランが頷いて先に進んだ。
部屋の奥には大きな窓があり、そこは光が差していた。左右に向かいあうように三人掛けくらいの大きさのソファが置かれていて、テーブルなどはなかった。右側のソファにニコが座る。私とアランは左側のソファに座った。
ニコが大きな溜め息を吐いた。
「あ、ありがとう、アラン、それから……」
「エミーリアです。アランの妻で、弟子です」
私を見たニコに端的な自己紹介だけをする。
「あ、あんたも魔術師か。それなら話をしやすい。あんたらは外にいる鷲を見たか?」
「ああ」
「それが島から外に出ようとすると襲ってくるんだ。いつ行ってもそれが続く。もう七日だ」
アランの見立ての通りだった。
「魔術師が近くにいるはずだ」
またニコが溜め息を吐いた。
「そのはずなんだ。この湖の範囲を超えるほどだとは思っていない。だけど、この島にはいない。建物の中に隠れているようでもないんだ」
「あの」
それを聞いて疑問に思ったことを私が切り出す。ニコとアランが私を見た。
「鳥だってどこかで休まないといけないんでしょ? 魔術師が操っているからと言って、一日中、それも七日も空にいるのはおかしくない? それとも七日くらいなら操り続けられるの?」
「エミーリア、君の言う通りだ。七日間命令を送り続けるというのは可能だろうが、鳥の体力を超える命令は与えることができない。どこかで操りつつも休ませているはずだ」
「で、でも、俺が行くときは必ず出てくるんだ。昼だけじゃない、夕方やそれこそ夜にも試してみたさ、だけど、いつもやつは出てくる」
「タイミングがたまたま一致しているのでなければ、やはりニコをどこかで監視しているのだろう」
「一日中も?」
アランが目を閉じて考え事をする。
「そうでないと辻褄が合わない。だが、相手もどこかで休憩をしないといけない。だから、ニコの話を信じるとどこかおかしいことになる」
「でも現実だ」
「ニコ、そろそろここまでの話をしてほしい。ここでなら魔術師に聞かれることもないだろう」
「あ、ああ。そうだな、それがいい。あれは二週間ほど前のことだった」






