第五話 夢を見る村 ⑨
目を覚ます。
私は仰向けになっているようだった。
後頭部に柔らかい感触がある。
「起きたようだね」
上から声が聞こえた。私をのぞき込む顔のおかげで視界は少し暗くなる。
「アラン」
私は長椅子に寝かされているようだった。頭はアランの膝の上にある。恥ずかしくなったが、そのまま起き上がると顔がアランに当たってしまいそうだったのでそのままにする。
「おはよう」
「おはよう」
アランに返す。
「アランは、先に起きていたんだね」
「君が起きる一日前にね。ずいぶんな寝坊だ。君は時間がかかったみたいだが、安心したよ」
私は一日以上眠っていたということか。
ほっとすると同時に、なんだかアランの顔が懐かしく感じた。
「私もアランがいてよかった。アランはすぐに見破ったんだ」
「そうだね。思ったよりも手間取ったが、アイリーンとの話はすぐについた」
「私は……、ううん、アランは夢の世界が魅力的じゃなかった?」
「魅力? 私があんな偽物に満足するとでも? 魔術師はそういう存在ではない。たとえ苦境でも現実に生きるのが我々だ」
アランは怒っているようにも見えた。魔術をかけたアイリーンに対してか、脱出するのに時間がかかった私になのか。
「そう、そう言うのがアランなんだよね」
「君の世界の私がどう言ったかは聞かないが」
アランが表情を変えて笑った。
「ああ、えっとアイリーンはどこにいるの?」
「そこにいる」
アランが顔を正面に向けたので、そちらの方を私も見る。アイリーンは夢で最初会ったように、卓の前で杖を抱えて座っている。服から除く手足は細く萎びていて、少女ではないことがわかった。
「もう息をしていない。死んでいる」
「そう……、じゃあ私たちが本当に最後だったんだ」
「どうする?」
「できれば埋葬してあげたいけど、他の村人が起きてこないかな、それに任せた方がいいと思う。私たちがここにいたら何かをしたのかって疑われるかもしれないし」
「そうだね」
私がアランに当たらないように起き上がる。鞄が置かれていたのでそれを持ち上げる。卓の先に転送門らしきものがあった。私たちが来た転送門と繋がっているのだろう。
アランも荷物を持ち、二人で教会を後にする。扉を開ける前に振り返り、眠るように死んでいるアイリーンを見る。
「おやすみ」
私はそれだけ言って、扉を閉めた。
改めて村を眺める。夢の中と同じ放射線の道があって、私は特に話し合うことなく、北側に歩くことにした。
「誰も起きてこないね」
アイリーンの魔術が解けたのだから強制的に目が覚めたはず。そうすれば何があったかを調べるためにアイリーンのいる教会に向かうのではと思った。
「村人は、誰もいないと思う」
アランが唐突に言った。
「生き物の気配がしない」
アランは人の魔力を見ることができる。そのアランが言うのだから、この村には生きている人間がいない、ということだ。
「そうか、そういうことか」
「何? 教えて」
「正真正銘、彼女は夢を見ていたんだ。とうに終わったはずの『村人を夢の世界で生活させる』という夢を見続けていた。終わったことにも気がつかず。もうずっと一人きりで夢を見ていた」
「そんな……」
「ようやく彼女は本当に眠ることができたんだ」
アランが踵を返す。
「彼女を埋葬しよう。彼女は与えられた役目を自分の選択により果たした」
「わかった」
アランについていく。
「ねえ、アラン」
「なんだい?」
「アランの夢の中に私はいた? いたならどんな私だった?」
困惑した顔、物憂げな顔、そして最後に笑顔。
「もちろんいたよ、うるさいほどに」
第五話はここまでです。






