第五話 夢を見る村 ④
次の瞬間、私たちは太陽の下にいた。
太陽は、ほぼ真上だろうか。
私たちが転送門にいたときは午後だったから、それよりも時間が戻っていることになる。転送門を抜けてから一日近くが経っていないのであれば、やはりここは現実ではないということになる。
後ろには私たちが今までいたと思わしき教会が建っている。扉は閉じられていた。戻って扉に触れてみたが、押しても引いてもびくともしなかった。
横にいたアランが私の手を取る。いつもより少し距離が近い気がした。
頭一つ分高いアランと視線を交わし合い、村を歩くことにする。
村は大きくはないが小さくもない。教会から五本の放射状に延びた道の一つを選び、そちらに歩いていく。その先に人がいたからだ。
家の前に立っていた男性が私たちを見て会釈をする。私たちもそれにならった。
「おや、珍しいね」
健康そうに日焼けしている男性が私たちに言った。
どこかで見たような雰囲気があったが、それは誰だったかはわからない。彼が他の街の出身でなければ、初対面ではあるはずだが。
「アイリーンが人を招くなんて」
男性はアイリーンを知っているようだった。
「あんたたちは魔術師かい?」
「ええ、はい」
「そうかい、まあ、ご覧の通り何もない村だが、散歩するにはちょうど良い日だ。ちょうど良い日以外はここにはないがね」
男性が歯を見せて笑った。
それ以外がない、ということは、この男性はここが夢だと認識しているのだろうか。
「あの、彼女はここが夢の世界だと言っていましたが……」
「ああ、そうだよ、みんなアイリーンの夢の中さ」
どうやらわかっているらしい。
「どれくらいいるのですか?」
「どれくらい? ああ、今はそうだね、二十人くらいかな」
「今は?」
「永遠には生きられないさ。現実の世界で死ねば、さすがに夢の中にはいられなくなる。アイリーンが守っているから病気にはならないが、寿命ばかりはどうしようもないからね。そのときが来たらアイリーンが教えてくれるよ」
アランが聞く。
「いつからですか? 彼女の夢の世界にいるのは」
「うーん、ここは時間がよくわからないからね。いつからというのはよくわからないな。とにかく、住み心地は悪くないよ。飢えもせず、争いもない。娯楽はちょっと物足りないが、大体好き勝手にやっているよ。ほら」
男性が指さした。その先には赤い花が絨毯のように咲いている。
「この花を管理するのが私の役目かな。これに水をやって、たまに他の住民に譲っている。これでお茶を入れると良い匂いがするんだ」
アランが花に近づき、しげしげと花を見ている。
「この花は一年草ですね、だから種まきがあると思うんですが」
「ああ、そうだね」
「咲きっぱなしではないということですね。それにこの花が咲くのは夏です」
今は春の途中だ、実際の季節とずれがあるのだ。
「つまりここには季節のサイクルがあるはずです」
「いやそういうものはないよ」
「季節がない?」
「そうだよ、私が種を蒔き、水をやり、花を咲かす。それは、私が決めることだ。夢の中だからね、それくらいできるだろう?」
「ああ、なるほど」
そう言われれば違和感はないか。
「他の住民に影響がなければ、それくらいは好きにできる。たまに雨を欲しがる人間がいるがね、そういうのはアイリーンに頼めばいい。嫌がる人間がいれば認められないが、たまには良いって大体の人はそう言うよ。雪はそうだな、降らそうと思えば降らせられるが、私は見た覚えがないね。家に閉じこもるほど寒いことはない。とにかく、良いところだよ、私たちにとってはね」
「アイリーン、彼女がすべてを管理しているのですか?」
「ああ、そうだよ、彼女はよくやってくれている」
「私たちが会った彼女はかなり若く見えました。みなさんが夢に入ったのはそう昔のことではないのではないですか?」
そう言われて、男性が首を傾げる。
「どうだろうか、ここは時間の感覚がどうにも掴めなくなるから、どれくらいからと言われても答えられないね」
「何年ぐらいということも?」
「申し訳ないね」
男性は即答した。
「いえ……」
「ただ、彼女を拾ってきたときのことは覚えているよ」
「拾ってきた?」
「ああ、そう、彼女は森の中にいた。誰かに捨てられたと最初は思っていたが、この近くに他に村はない。だからわざわざここまで来て捨てることはないんだ。アイリーンは、自分の名前と簡単な言葉しか話せなかったから、どうしてここにいるのかはわからなかった。とにかく私は彼女を連れて帰って、村の子供として育てることにした」
「いつから彼女は魔術師になったのですか?」
「彼女が育つにつれ、六歳くらいになった頃かな、不思議なことを言うようになった。私たちには見えない光のようなものが見えると言うんだ」
彼女に見えていたのは魔素のことだろう。魔術師として特に才能があるものは、誰に言われずとも魔素が見えることがあるらしい。
「私たちの村には昔魔術師がいたことがあった。そのときのことを覚えていた者が、その魔術師が同じことを言っていたことを思い出したから、彼女に魔術師の能力があることがわかった。私たちは喜んだ。当時、私たちは困窮していたからだ。あまり作物の出来がよくない年が続いていてね、魔術師なら何とかなるんじゃないかなと思った。中央都市に嘆願を出したこともあるが、色よい返事はなかった。それから先のことは……。そうだね、アイリーンに直接聞くといい」
「どうしてですか?」
「私たちは古い記憶は覚えているが、近くなるとどうにも記憶がおぼろげになるようでね、アイリーンは夢にいる副作用だと言っているが。まあ記憶なんて、どうでもよいと言えばいいものだよ、ここには苦労も苦痛もないし、私たちは素晴らしい世界にいるのだからね」
彼の話を聞いていて疑問に思っていたことを私が聞く。
「新しく入る人はいるんですか?」
「ああ、そうだな、何人かいたと思うが、みんな平等だから、その辺りは誰も気にしていないかな。作ろうと思えば自分が思う家を作ることができる」
「そうですか、その人たちも魔術師でしたか?」
「そうは聞いていないが、いやどうだろう、そのとき聞いたかもしれないが……。悪いね、どうもやっぱり記憶がね」
「いえ、ありがとうございます」
「あんたたちもここに気に入れば住むといい。気に入らない部分は自分で作り替えればいいんだから」
「ええ、そうですね」
私は曖昧に返す。






