第五話 夢を見る村 ③
「夢の中?」
「そうじゃ、ここは私が作った夢の世界。ぬしらは私の夢に取り込ませてもらった」
「それって」
「認識改変魔術の一つだ」
後ろからアランの声がした。
「うむ、そうじゃ」
「しかしかなり高度のはずだが」
アランは彼女の見た目のことを言っているようだった。
彼女は目を開けず、やや俯いている。
「わしはこの魔術くらいしか使えないからのう」
抱きしめている杖を軽く持ち上げてコツンと床を叩いた。しゃべり方は私の時代ですら古いと感じるくらいだ。
「あなたは」
「わしの名はアイリーン。この村の夢を管理している魔術師であり、ただ唯一の『起きている』人間じゃ」
「それじゃあ、他の人たちは」
「全員が眠っておるよ。私の夢の中で暮らしておる」
「それは、どういう……」
村人が眠っているということだろうか。
「そのままの意味じゃ。その村そのものがわしの認識結界の中じゃ。手順を踏まなければ誰も出て行かんし、誰も入らん。たまにこうしてわしが直々に旅人を呼んでもてなすくらいじゃよ」
「もてなすって……。私たちは別に」
「危害を与えようとは思わんよ。まあ他にやることがなくて暇なんじゃ。少しの間ゆっくりして村でもみるがいい。案外気に入るかもしれんよ」
アランを見ると彼はなんだか困ったような顔をしていた。
「彼女の言うようにしようか」
「どうして?」
「どうしてかは、君ならわかるはずだが」
首を捻る。
「私が君の夢に入ったときを思い出せばわかる」
「ええ、ああ、そうか、眠っている本体がいるから」
「そう」
眠っている私たちがどこかにいて、それがどのような状態なのかはわからない。どこかに寝かされているかもしれないし、最悪村のどこかに倒れているかもしれないし、誰かの手によって監禁されているかもしれない。彼女の言うことを信じる道理はない。
いや、そもそも、ここは本当に夢の中なのだろうか。
ただ転送門を抜けた先に来ただけではないのだろうか。
それ自体信じることができるだろうか。
疑問が頭にいっぱい浮かぶ。
アイリーンを見た。
彼女は動いていない。
「疑っておるな? ここが夢の中なのかどうかを」
「正直言うと、はい、そうです」
「それを証明することはできないんじゃ、夢と現実にどれほどの差があるか、ぬしはわかるまい」
「それは」
「夢はいつか醒める。醒めれば現実に戻る。しかしじゃ、どちらが現実かどうか、あるいは、現実がたった一つかどうか、それもわかるまい」
「たった一つ?」
「そうじゃ、それは人間の領分ではないんじゃ」
それは、そうかもしれない。
「たとえば、じゃ」
アイリーンが杖の先端を揺らすと、そこに球のように空間が歪んで見えた。その球はゆっくりと天井に移動していく。天井に触れるとそこだけ建物がなくなり、空が顔を出した。
「こういうこともできるんじゃが、それが夢の中なのか、魔術なのかわかるまいて」
振り返ってアランを見るが、アランは何も言わない。
「まあ、村の様子を見ておいで。荷物は現実で預かっておるよ」
それで荷物が手元にないことにようやく気がつく。やはり現実ではないのだろうか。
アイリーンがまた杖を振る。
彼女の姿がぼやけていく。






