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【5/2コミカライズ一巻発売】【完結保証】およそ100年幽閉されていた魔術師夫婦は世界を巡る  作者: 吉野茉莉
第五話 夢を見る村

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第五話 夢を見る村 ③

「夢の中?」


「そうじゃ、ここは私が作った夢の世界。ぬしらは私の夢に取り込ませてもらった」


「それって」


「認識改変魔術の一つだ」


 後ろからアランの声がした。


「うむ、そうじゃ」


「しかしかなり高度のはずだが」


 アランは彼女の見た目のことを言っているようだった。


 彼女は目を開けず、やや俯いている。


「わしはこの魔術くらいしか使えないからのう」


 抱きしめている杖を軽く持ち上げてコツンと床を叩いた。しゃべり方は私の時代ですら古いと感じるくらいだ。


「あなたは」


「わしの名はアイリーン。この村の夢を管理している魔術師であり、ただ唯一の『起きている』人間じゃ」


「それじゃあ、他の人たちは」


「全員が眠っておるよ。私の夢の中で暮らしておる」


「それは、どういう……」


 村人が眠っているということだろうか。


「そのままの意味じゃ。その村そのものがわしの認識結界の中じゃ。手順を踏まなければ誰も出て行かんし、誰も入らん。たまにこうしてわしが直々に旅人を呼んでもてなすくらいじゃよ」


「もてなすって……。私たちは別に」


「危害を与えようとは思わんよ。まあ他にやることがなくて暇なんじゃ。少しの間ゆっくりして村でもみるがいい。案外気に入るかもしれんよ」


 アランを見ると彼はなんだか困ったような顔をしていた。


「彼女の言うようにしようか」


「どうして?」


「どうしてかは、君ならわかるはずだが」


 首を捻る。


「私が君の夢に入ったときを思い出せばわかる」


「ええ、ああ、そうか、眠っている本体がいるから」


「そう」


 眠っている私たちがどこかにいて、それがどのような状態なのかはわからない。どこかに寝かされているかもしれないし、最悪村のどこかに倒れているかもしれないし、誰かの手によって監禁されているかもしれない。彼女の言うことを信じる道理はない。


 いや、そもそも、ここは本当に夢の中なのだろうか。


 ただ転送門を抜けた先に来ただけではないのだろうか。


 それ自体信じることができるだろうか。


 疑問が頭にいっぱい浮かぶ。


 アイリーンを見た。


 彼女は動いていない。


「疑っておるな? ここが夢の中なのかどうかを」


「正直言うと、はい、そうです」


「それを証明することはできないんじゃ、夢と現実にどれほどの差があるか、ぬしはわかるまい」


「それは」


「夢はいつか醒める。醒めれば現実に戻る。しかしじゃ、どちらが現実かどうか、あるいは、現実がたった一つかどうか、それもわかるまい」


「たった一つ?」


「そうじゃ、それは人間の領分ではないんじゃ」


 それは、そうかもしれない。


「たとえば、じゃ」


 アイリーンが杖の先端を揺らすと、そこに球のように空間が歪んで見えた。その球はゆっくりと天井に移動していく。天井に触れるとそこだけ建物がなくなり、空が顔を出した。


「こういうこともできるんじゃが、それが夢の中なのか、魔術なのかわかるまいて」


 振り返ってアランを見るが、アランは何も言わない。


「まあ、村の様子を見ておいで。荷物は現実で預かっておるよ」


 それで荷物が手元にないことにようやく気がつく。やはり現実ではないのだろうか。


 アイリーンがまた杖を振る。


 彼女の姿がぼやけていく。

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