第五話 夢を見る村 ②
咄嗟に閉じていたまぶたを通して光がなくなっていたのを感じてようやく目を開ける。左手からアランの手の感触は消えていた。
周囲を見渡す。
どこかの建物のようだ。
建物の中に転送されるのは初めてだった。
アランがさっき言っていた、街から離れた場所に転送門が作られる、というのは例外もあるらしい。
簡素な長椅子が並び、前に卓がある。
すぐにここが何かの教会であることがわかった。
教会は世界の創造主を信仰するために作られた建物で、すべてではないがある程度の規模の街には大体ある。国が国教として定めているわけではないが、信仰をしている人は多い。熱心に信仰されているというよりは、住民を管理している集団という立場で接している人がほとんどだ。
魔術師は建前上この創造主を信じている、ということになっているし、詠唱で言われている『主』とはこのことを指している。
とはいえ、真剣に捉えている魔術師は少ない。
彼らは自然物である魔素と自身の魔力を使って魔術の探求を行っているわけで、そこに創造主なるものが介在する余地がないと思っている。
目がより慣れてきて、卓の前に誰かが座っているのがわかった。
卓を背にして膝を抱えて座って、上半身ほどの長さの杖を抱えている。こんなに長い杖は見たことがない。魔術用でもないのかと思ったくらいだ。服は質素な麻のワンピースを着ていた。髪は緩くウェーブをしながら伸びっぱなしになっている。十分な手入れがされていないのだろう。
「あなたが私を呼んだの?」
彼女が目を閉じたまま頷いた。
「そうじゃ」
彼女が見た目の年齢の割には低い声で言った。そう、彼女は私よりもずっと若く、少女といっていい。魔術師を名乗るには若すぎるくらいだった。しかし彼女が私たちを呼んだのであれば魔術師なのだろう。
私たち。
そうだ、アランは。
後ろを向く。
アランは長椅子の一つに座っていた。
「よかった」
アランは小さく手を振った。
彼女に向き直す。
「ここは」
彼女は口の端を上げて、それから口を開ける。
「ここはわしの村、そしてわしの夢の世界じゃ」






