第四話 心ない人々 ③
塔を出て村を歩く。
変わらず村は静かだった。日中だけどみんな家に閉じこもっているのだろうか。
一軒の家から女性が出てきた。どこかへ向かおうとしているようだが手には何も持っていない。ちょうど私たちの方向だったので、お互いが認識できそうな距離になって私から声をかけた。
「こんにちは」
私の声でようやく私たちに気がついたようだ。私を見る。
「こんにちは」
彼女も返す。アランと同じくらいの年だろうか、さっきの男性よりは若々しい。
「この村には何か、その、食事をするようなところはないですよね?」
「食事……、ええ、ごめんなさい、そういうところはないの。小さい村だから」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「火を使いたいなら、塔の一階が使えますよ。少しですが薪もあります」
塔の一階には炊事場があったのだろう、気をつけていなかったのでわからなかった。
「魔術の火でも?」
アランが女性に聞いた。
女性はアランを見て、少しの時間固まっていた。明るそうな表情もそのまま貼り付いたみたいだった。
「魔術……、それはどのようなものですか?」
「魔術を知らない?」
「すみません、よくわかりません」
女性が頭を下げた。
アランはそこで私を見る。何かの意図を含んでいる。だけど、私にはそれがわからなかった。
「そうですか、何でもありません。良い一日を」
アランが男性のときと同じく手を差し出しそれに応じた女性と握手をする。アランが手を離し、私を見た。私も手を差し出し女性と握手をする。微妙に引っかかるところがあったが、この感覚を上手く言葉にできない。どこか冷たいような、固いような、でもおかしい、とまでは言えないくらいだった。
再度女性が頭を下げ、その場を離れていった。
「あの人、魔術を知らないって」
「そう言ったね」
「そんなことあるの?」
「さあね」
アランが曖昧に返す。
この世界に生きていて、魔術師ではなくても魔術の存在そのものを知らない、ということがあり得るのだろうか。実際に見たことがない、という人はいるかもしれないけど、魔術が存在するのが当たり前だと思っている私としては意外だ。
アランが歩き出したので横に並んで歩く。
「アラン、何を気にしているの」
「完全な確証はないが……」
アランが続きを言いかけたとき、老人が屈んでいるのを見つけ、そちらに歩いていった。老人は地面にひしゃくで水を撒いている。
「こんにちは」
ここであった二人と同じく、私が話しかけてようやく向こうも私に気がつく。
「ああ、こんにちは」
「良い天気ですね、何をされているんですか?」
ひしゃくを持つ手を止める。
「花に水をやっているんだ」
「花?」
水を撒いていた地面を見るが、ただ土があるだけで、花はおろか何の植物も生えていなかった。
「そうだよ、花に水をやるのが私の役目でね」
「役目?」
「役目……、そう花に水をやることだ」
何かちぐはぐな受け答えだ。
「この村について聞きたいのですが」
「どんなことだね」
アランが老人に聞く。
「この村は、いつからあるのですか?」
「いつから……、ずいぶん前からだよ」
「あなたは昔からここにいるのですか?」
「ああ、昔からいるよ」
「失礼ですが、あなたはおいくつですか?」
「おいくつ……、いやあどうかな、忘れてしまったよ」
「そうですか。ええ、それと、あなたは魔術を見たことがありますか?」
アランの質問に、女性と同じく老人は動きを止める。
「魔術……、なんですかそれは?」
アランが私と目を合わせる。
「いえ、なんでもありません。良い日を」
アランがまた握手をする。それに続いて私も老人と握手をした。女性と同じ手触りがした。どことない違和感。






