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【5/2コミカライズ一巻発売】【完結保証】およそ100年幽閉されていた魔術師夫婦は世界を巡る  作者: 吉野茉莉
第二話 魔術師の資質

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第二話 魔術師の資質 ③

 街はこぢんまりとしていた。レンガ造りの建物が密集している。どれも二階建てがせいぜいだった。街の外には土が広がっていた。これから麦でも育てるのだろうか。街は円形ではなくおおよそ正方形をしている。街の外にあるその一辺の真ん中に街への入り口があった。そこから入る。南側の入り口だ。敷き詰められたレンガはしっかりと作られている。規模の問題か、市場のようなものはなかった。建物も五十か、多くても百はないだろう。


 異分子だとすぐわかるのか、時折すれ違う街の人はこちらをいぶかしんで見ていたが、呼び止められるほどでもなかった。


「どうするの、アラン」


「雑貨を扱う店があるといいんだが、まずは両替だね。両替商はここにはいないだろう。それから宿屋を確保して、少し情報収集をしたい。食料も必要だし、馬を買えないとして、定期便のようなものがあればいい」


「ねえ、あれじゃない?」


 街の中心と思われる十字路までたどり着き、見つけた建物を指さす。他の住居用とさほど違いがないが、その建物には看板が掲げられていて、「酒場兼雑貨屋」と書かれていた。


「そのようだね」


「行こう」


 心なしか自分の声が弾んでいるのが自分でもわかった。十歳で魔術の勉強を始めてからはほとんどこういった店に行くことがなかったからだ。


 アランを先頭にしてドアを開けて中に入る。


 カウンターと数台のテーブルがあった。一つにはテーブルには男同士で座っていて騒がしく、もう一つのテーブルには一人の男が無言で何かを飲んでいた。


 アランがカウンターまで歩き、奥にいた主人らしき男に声を掛ける。


「頼みがあるんだが」


 主人はうっとうしそうに溜め息をついた。


「ここは酒場だよ、酒場で何か頼み事をするときのルールはわかるだろ?」


「ああ、そうだな、アルコール以外で頼めるものはあるか?」


「レモネード、ミルク」


「それじゃ、レモネード。エミーリアは?」


 アランが振り返って私を見た。


「私も、同じ」


「レモネードを二つ」


「わかった」


 主人が頷いた。


「それでそれが問題なんだが、レモネードを払う持ち合わせがないんだ」


「なんだって?」


「正確に言うと、手元に今は金貨しかない。レモネード代にしては多すぎると思うんだが」


「そうだな、子供の飲み物だからな」


「銀貨か銅貨に交換したい。見たところ両替商はいないだろうから、ここでなんとかできないか? ここは雑貨を扱っているんだろう? なんとかしてくれたら、買い物もする」


「そういうことなら」


 主人が後ろを向き、奥に向かって叫んだ。


「タラント、お客だ、両替もしたいってよ!」


 間があって、奥から男が出てきた。


 背が低く、腰を曲げて、眼鏡をかけていた。その風体から老人のようにも見えたが、声は若かった。


「ああ、ええ、あんたかい?」


「そうだ。これを交換してほしい」


 アランがカウンター越しに金貨を渡した。


 それを受け取ったタラントは金貨をカウンターにトントンとぶつけて音を出して、それから両面をじっくりと見ていた。


「あんたはこれをどこで?」


 不審そうにタラントがアランを見る。


「家からだ」


「こんなに古い金貨、久しぶりに見たよ。もう骨董品だよ」


「金貨は祖父の机にあったんだ。これもお古だ」


 アランは彼に話を合わせている。まさか本当に百年前の人間だと説明するわけにもいかない。


「そうして見ると、あんたも古くさい服を着ているね。この街で国家魔術師の服を見ることはそうないからね」


「そうか」


「ふん、まあいいや、これなら銀貨二十枚だな、銀貨は十枚を銅貨百枚に交換しておいた方がいい。うちの物も銀貨じゃ高すぎるよ」


「そうか、じゃあそれで……」


「おい、ちょっと待て」


 アランが取引に応じようとしたところで後ろから低い声が聞こえた。そっちの方を見ると、テーブルで一人で酒を飲んでいた男だった。男はつかつかとこちらに向かってくる。体格のよくひげを生やしている大男だった。カウンターまで来て、タラントが持っていた金貨を取り上げた。


「おいおい、ケーリュ」


 タラントがケーリュと呼んだその男がタラントを睨む。


「アデーラ王即位記念金貨、こいつは金の含有率が高い。状態も悪くない、銀貨二十枚じゃ釣り合わない、せめて三十枚だ」


「そんなケーリュ」


「タラント、お前の鑑定眼が一時的に鈍ったのか、旅人からぼったくろうとしたのか、俺はわからないが、前者だと丸く収まると思うな」


「ケーリュ。ああ、ああ、わかったよ、旅人さん、ケーリュの言う通りだ、私の鑑定眼が鈍って勘違いしちまった。銀貨三十枚、そのうち十枚を銅貨百枚に替えよう」


「わかった」


 話を聞いていて、私はアランの裾を引っ張って小声で耳打ちをする。


「あと九枚あるよ」


 タラントが奥に行ったのを確認したのかアランがこちらに返す。


「大体の価値はわかった。全部両替するとそれなりの荷物になる。残りはまた心許なくなってからでいい」


「そっか」


 タラントが戻ってきて、お互いに銀貨と銅貨の数を数えて、両替は成立した。タラントは雑貨が担当のようで、二人は店の脇にある棚を見た。


「杖はあるか?」


 アランの声に、タラントはゆっくりと顔を上げる。


「杖っていうのは魔術師のかい?」


「ああ」


「あいにく魔術師が来るような街じゃないからね。そんなものが……、ああ、いや、待てよ、ちょっと待ってくれ」


 タラントが奥に引っ込んでいく。


 アランと私が顔を合わせる。


「あるのか」


「さあ」


 タラントが戻ってくる。その手には布に包まれた何かを両手で持っていた。


「これなんだが」


 布を開く。


 そこには指の先から肘くらいまでの長さの古びた杖があった。


「これをどこで?」


「この街のずっと南に何もない野原がある。その先には山があるからそこまでなんだが、その野原に刺さっていたらしい。というのが、これを旅人から買い取った親父が言っていた。だから、そのときでそうだな、五十年前とかそれくらいだ。ただ、魔術師の杖っていうのはむしろ古いのがいいんだろ?」


「ああ、それは、もちろん、そうとは限らないが、大体そうだ」


「ここにあっても価値がないまま仕舞われるだけだ、あんた達が買い取ってくれるならそれはこっちとしても助かる話だが」


「杖をよく見せてくれ」


「あいよ」


 アランがタラントから杖を受け取る。


 アランが先端に触れ、根元に触れ、両方を持ってしなりを確かめる。


「どうなの?」


 私がアランを下からのぞき込む。


「悪くない。というか、良いものだ。材質は、そうだな、ワスレナの木だ。それも年数の経った古木。こんなものが刺さって?」


「らしいな」


 アランと目を合わせる。南にあるものは私たちが過ごしてきた城がある。百年間は姿を消していたはずで、もう城があるという情報も失われていた。そんな場所で、杖が一本刺さっていたというのだろうか。


「どこかで見たことがあるような気がするが、思い出せない。多くはない、珍しい物だ」


「魔術師の杖の価値はわからん。銀貨五枚でどうだ?」


 タラントの値付けに、アランはじっとタラントを見る。私には相場というのが全くわからない。少し時間があって、タラントが息を吐いた。


「銀貨四枚、それでも嫌ならまた仕舞っておくよ」


「わかった」


「どうも」


 交渉が成立したようだ。


 アランは銀貨四枚を机の上に置いた。


「エミーリア、君の杖だ」


「うん」


「すぐに使えないとして、肌身離さず持っているように。それこそこの杖を自分の延長線上、自分の内側だと認識できる程度には」


「うん、わかった」


 受け取った杖をどこにしまおうか悩んで、腰のベルトに差すようにした。


「あ、それから」


 私が思い出す。


「アランのカバンを買わなくちゃ。じゃないと私ばっかりが荷物を持つことになっちゃう」


「ああ、そうか、そうかもね」


 アランが笑った。


「大きさにも寄るが、いくつかあるよ、持って確かめるといい」


 タラントが隅を指した。


「ありがとうございます。ねえ、アラン、どれがいい?」


「荷物が入るならなんでもいいよ」


「うーん、とじゃあ、この灰色の」


 私が灰色の手持ちカバンを指す。


「あいよ。それで、これからどこに行くんだい?」


 タラントが私に話しかけてくる。


「どこっていうわけじゃないけど、私の家まで戻ろうと思って」


「へえ、それじゃあどうしてこんな辺鄙な街まで」


「それは……」


「ああ、いい、いい、旅には誰しも何か人に言えない理由があるってもんだ。お嬢ちゃんに聞くには失礼だったな。長い旅になるなら、塩、砂糖、油を揃えていくといい。少し値が張るが瓶詰めの塩漬けの食べ物がいくつかある」


 両替でぼったくろうとしていた割りに親切だった。騙して得になるのなら騙した方がいい、ということだろうか、大体の人間はそういうものだろうか。


「隣の街まで行きたい。馬が調達できればいいのだが」


 アランの質問にタラントは少し首を捻る。


「馬? それはちょっと難しいな、あっちから来た馬に相乗りするくらいだが、こちらから使える馬はないな」


「そうか」


「どこから来たのかわからないが、隣街なら『転送門』が繋がっているよ。二人ならそれで済むんじゃないかな」


「転送門?」


 聞き返したアランにタラントは戻した首を捻り直す。


「そうだよ転送門、あんた達、まさか転送門を使わずに旅をしているのか?」


「ああ、いや……」


 アランが言葉に詰まった。横にいた私に視線を送る。目だけで返した。どう振る舞うかアランの様子を見てわかった。知らないということを悟られるな、だ。


「ええ、ここのところは、それはどこに行けばいいかわかりますか?」


 タラントがじっと私を見つめる。


 間があって、タラントが言う。


「まあ、あんたらも魔術師か、それなら転送門を使わない方法があるのかもな。転送門を使いたいならさっきのケーリュに聞いてくれ。この街で一人きりの魔術師だ」


 アランと私はテーブルに戻っていたケーリュを見る。


 ケーリュは一人で何かを飲んでいた。


「あ、ありがとうございます」


「あいよ」


 タラントから買った品物をカバンの余白に詰め込んでおく。

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コミカライズ!
【竹コミ!連載中】およそ100年幽閉されていた魔術師夫婦は世界を巡る
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およそ100年幽閉されていた魔術師夫婦は世界を巡る
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