第十一話 おろかでみじめで幸せな ④
「さてと、何を話したらいいのか」
エチカの横にはサイラスが、テーブルの反対側には私とアランが座っている。エチカが持ってきてくれたお茶から湯気が立っている。
「あんたは私を知っているみたいだが、外の世界じゃ私は有名人なのかね?」
「私はあなたの弟子です」
「さっきもそう言ったが、私の弟子はマリア一人だ。あんたじゃない」
「それは……」
アランは私たちが何かしらの理由によってこの世界から消えてしまっていること、そのせいで私たちを知る者がいなくなってしまったこと、それから私たちがこの長い期間どうしていたかを簡潔に説明した。エチカは関心はあまりないようだった。
「つまり、私の本当の弟子はあんたで、あんたの弟子がマリアなのに、この世界が改変されているってことか」
「そうです」
「そういう魔術があるのか」
「わかりません、ただ現実としてそうなっているようです」
「まあ、引きこもった私にも改変させるんだから、魔術とかそういう問題じゃないんだろ」
「師匠もそう思いますか」
「あんたが私を師匠と呼ぶのはどうにも収まりが悪いが、あんたにとってはそうなんだろうね。嘘をついているようにもみえない」
「ええ」
「魔術でないなら、そうだね、『天災』の類なんだろうね」
「天災?」
「そうさ。前々から思っていたんだが、天災の一部にそういう機能があるんじゃないかと思っている」
「そういう機能というのは?」
「何かを『修正』する機能だよ」
「修正……」
「この世界に何か不都合なことがあるとそれを修正しようとして天災が起こる。偶然にしては都合が良すぎるタイミングでそれが起こる。そういった事例があって、私はそういう見方をしている。防ぎようのないことだ」
「それが個人に向かうなんて」
「いやわからない、ただの推測として言っているだけさ。私が言いたいのは、あんた、アランと言ったね、そういうものに対して抗うだけ無駄ってことさ。受け入れてしまった方がいい。今あんたらを知っている人間がいなくて困ることはないんだろ。むしろ百年前の人間が生きていた方が都合が悪いんじゃないか。だったら新しい人生を歩けばいいさ」
エチカの言うことにも一理あるような気がする。結果論でしかないけど。
「待て、そういうことなんじゃないのか? あんたらが生きていることが『天災』に匹敵することだとこの世界が判断している」
「この世界、というのがよくわからないのですが、そういう存在がいるということでしょうか?」
「ただの与太話だ。真剣に考えることじゃない」
「ねえ、アラン」
「なんだい、エミーリア?」
エチカの話から思いついたことを言う。
「それが『隙間』に関係してるってことじゃない?」
それに反応したのはエチカだ。
「『隙間』?」
「『魂』が向かう先です。マリアさんが見つけた、空間と空間の隙間、だそうです」
「それは面白そうだ。続けてくれ」
私が転送門の仕組みを説明する。案の定エチカは転送門については何も知らなかった。彼女が言っていた、引きこもり、の期間はかなり長いのだろう。
魂が極めて小さいことも説明した。こちらは腕を組みながら聞いていて、いくつかアランと確認の会話をしていた。
「なるほど。マリアはそこまで解明していたわけか。さすが私の弟子だ。いや、あんたの弟子か。まあ、どっちでもいいか。私の流れが受け継がれていて嬉しいよ。これは検討に値するね」
「その『隙間』に触れたことで、マリアさんはアランのことを思い出したそうです。エチカさんが言っている修正する『この世界』というのと関係があるんじゃないですか?」
「魂の行き先、空間の歪み、世界、か。まあやっぱり推測の域を超えないがね。おっと」
エチカの横に座って今までずっと無言でお茶も飲まなかったサイラスがエチカの袖を掴んだ。
「ああ、もう時間か。悪いね、この話はまた明日にしよう。この城の適当な部屋を使ってくれ。明日、そうだ、ここには『明日』は存在しないから、寝て起きたらでいい。それじゃ、私はサイラスを連れて休むから」
こちらが何かを言う暇もなくエチカは立ち上がって、エチカの袖を握るサイラスと一緒になって部屋を出ていってしまった。






