第十一話 おろかでみじめで幸せな ③
エチカは驚いた顔をしながら両手を挙げた。
「私のことを知っているのか。歴史に名前が残るほど有名人になったつもりはないが」
「知っているも何も、私ですよ、師匠」
アランが姿勢を正す。
エチカはそれを聞いて首を傾げた。
「師匠? 私のことを師匠と呼ぶのは一人しか知らないが、あんたは誰だ」
「アランです。あなたのその一人しかいない弟子です」
「アラン? いや、私の勘違いじゃなければ、私の弟子はマリア一人だけだ。あんたも見た記憶がない」
騎士に注意しながら私がアランのそばまでゆっくりと歩いて行く。
「アラン。たぶん、彼女も覚えてないんだよ」
私とアランの存在が消えた世界で、その影響が彼女にも及んでいるのだ。
「……そうか」
「それはそうと、よく私の結界に入ることができたね。今までこの結界に入れた人間は迷い込んだ以外でいないんだが、あんたらは知ってて入ったんだろ? どっちの力だい?」
「……私です」
おずおずと手を挙げる。
「いいね、面白い子だ。入ってどうなるかまでは考えなかったのかい? 人の認識結界に入って」
「すみません、こんなことになるなんて……」
「どうも抜けた子だ。いくつだ?」
「十六、だと思います」
「なるほど。あんたの馬鹿でかい魔力は感じているが、私と似た物があるのかもね」
「師匠……」
「あんたのことは覚えてなくて申し訳ないが、こんなに愉快なこともそうない。もてなそうじゃないか、と思うんだが、ここには食料がない。まあ、お茶でも淹れてやるよ。こっちに来な。サイラスも。一応敵じゃないことがわかった」
エチカにサイラスと呼ばれた騎士は頷くでもなく表情も変えずに彼女の元まで歩いて行く。






