第十一話 おろかでみじめで幸せな ②
アランの手を取って結界の中に入る。境目を抜けるときに頭がチリチリとした感覚があったがそれだけだ。
「お城……」
中には小さめの城があった。私とアランがいたところよりは小さいがしっかりとした城だ。ここに昔からあったものだろう。
私たちが入ったところが偶然にも正面だったようで、アーチ状の門を抜けて、木製の扉を開ける。
「あのお」
広間がある。
誰もいない。
「エミーリア!」
アランが叫んだ。上から影が飛び降りてきた。それと同時に衝撃が全身に走る。アランに右に押し飛ばされたのだ。金属音が響く。
「アラン!」
私とアランの間に挟まる人影がいた。深い緑色の外套が遅れて揺れる。左手で外套と同じ色の帽子を押さえて、右手で剣を持っている。広間の上からやってきたのだ。彼が握る細い剣の柄の装飾に見覚えがある。鷲の紋章だ。
「連盟の騎士か。だがこれは人では……、それに、この感じは覚えがある」
アランが呟いた。
騎士装束の彼は無言のままだ。私に背を向けているので彼の表情は見えない。剣を水平に構える。
彼は中央都市に所属する騎士の組織、騎士連盟の人間だ。私は話でしか聞いたことがない。騎士は称号であり、戦力ではない。個人で鍛錬を積むが、戦闘に直接出向くことは少ない。戦争なら陣頭指揮を執る立場だ。
「待って!」
騎士は私に反応することなくアランに飛びかかる。アランは杖を持ち、剣を受け止めた。この百年で作られた『壁』の結界だ。魔力を直接硬質化して物体を弾くものだ。
騎士の剣が後ろに跳ねる。のけぞった騎士はすぐに体勢を立て直し、剣でアランを突こうとする。アランも杖で合わせるが、押し負けたのか後ろに下がる。アランは魔術師だ、近距離戦闘のための訓練をしているわけではない。
結果的に距離を取ったアランが杖を振る。アランの姿がぼやけた、認識結界を張ったのだ。騎士から姿を消してどうにかするつもりなのだろう。
「ツッ」
アランの認識結界が解ける。誰かの認識結界の中だ、結界の中では結界を張ることは難しい。騎士が駆け、剣を振るった。アランがまた壁で弾く。
旗色はかなり悪い。アランは防戦一方だ。他の魔術を発動させる隙もない。
ただ騎士は私に注意を払っていない。アランとどちらを優先的に排除するべきかわかっているのだ。
今の状況で私ができること。
胸から杖を取り出して、騎士に狙いを定める。
先端に魔力を込める。
放てるだけの魔力を一点に集中して騎士に向けた。
前に撃ったときは途中で霧散してしまったが、この距離ならまだ維持できるはずだ。倒す必要はない、せめてアランから引き離すことができればいい。
放つ。
魔力が線となって騎士に向かう。魔術師ではない騎士なら魔力は見えない。しかし、放つ直前に騎士は私に向き、剣で受け止めた。私の魔力の勢いは消えず、騎士が吹き飛ばされる。そのまま広間の壁に打ち付けられた。
背中を打った騎士は前に倒れそうになるが、剣を床に刺し、身体を支えた。ほとんどダメージを与えられていない。照準を私に定めたようだ。私を見る騎士は少年のようだった。私は杖を騎士に向ける。彼が私のところに来るまでにもう一度撃てるだろうか。
騎士が身体を前方に傾ける。私に駆けるつもりだ。
「サイラス!」
広間の奥から大きな声がした。
その声で騎士は動きを止めた。
「お客さんのようだ。剣を引きな」
騎士は声の方を向かず、剣を鞘に収めた。
声の主は女性だ。
私はその強い口調の声を現実ではないところで聞いた覚えがある。
彼女が姿を表す。
細い長身に赤い燃えるような髪。
「エチカ師匠!」






