第十一話 おろかでみじめで幸せな ①
「おかしい」
「おかしい、よね」
アンナリーゼと別れて教えてもらった転送門を抜け、次の転送門へと向かう途中だった。話に聞いた限りでは一日くらいで着くはずだったが、すでに二日が経過していた。私たちは真っ直ぐに進んでいるはずだ。
「どこかで道を間違ったかな」
「そうかもしれない」
整備された道を歩いていたわけじゃないからどこかで逸れてしまった可能性はある。
「さて、どうしようか」
「近くに街があればいいんだけど」
私たちが想定する道から外れ、小高い丘まで行った。広がるのは丈の短い草原ばかり。
「このくらいなら、牛を放している人がいてもよさそうだけど」
「そうだね」
街の規模はともかく集落くらいがあってもよさそうなのに視界の範囲には建物が見当たらない。動物の姿も見えない。
「うーん」
手で庇を作って遠くまで見渡す。
「あれ?」
遠くまで目を凝らして、それからその境目である空を見て、奇妙な違和感を見つける。
「なんか、変じゃない?」
少し離れていたアランが横に来る。
「あっちの角度と、そっちの角度、両方の空の感じが、同じじゃない?」
アランも見ている。
「本当だ」
地平線に近い空には薄い雲がある。その雲が絵で描いたものを貼り付けたように二カ所同じなのだ。二人でその空をじっと見続ける。二カ所の雲は全く同じ動きをしている。
「よく見つけたね」
「うん、これって」
アランに褒められて嬉しくなる。
「認識結界だ。それもかなり大きい。この近辺一帯に結界が張られている。私には気がつかなかった」
魔術師が張る認識結界は外からの認識を阻害する結界だからその結界内部を見ることができない。実際には『ある』のだけど、近づいても『ない』ように扱われてしまう。結界に向かって真っ直ぐ歩いているように見えて、結界を迂回するように歩いてしまう。
他の魔術師がその認識結界を把握することができるかはその魔術師との熟練度の差、魔力の相性による。
それを加味しても、私に見えてアランに見えない、ということは珍しいはずだ。
二人で顔を合わせ、丘を降りていく。
「確かに」
アランが結界の外側ギリギリに立って手をかざす。
「この規模で認識結界を張れる魔術師はそういない」
「私たち、何度かここを通ったってことかな」
「そうかもしれない」
認識結界は外から内部を隠す目的で行われるものであり、また認識結界に気がつかず内部に入ったとしても認識阻害がされているので何にも気がつかないまま通り過ぎてしまうことが多い。
「エミーリア、君は魔素石を持っていたね」
「あ、うん、あるよ」
鞄から前に拾った魔素石を取り出した。
「それを投げてみて」
アランに言われた通り、魔素石を結界があると思われる方向に投げる。魔素石は途中で姿を消してしまった。
「魔素石は魔素の塊だから認識結界を抜けることができる。向こう側に行ってしまったんだ」
「それじゃあ、何か魔術を使えば」
「向こう側に届くはずだ」
「私たちは?」
「意図的に中に入ることができるかどうか?」
「うん」
「無理矢理ならできるとは思うが……」
「が?」
「結界内は圧倒的に相手が有利だ。何が起こってもおかしくない」
「壊すことはできる?」
「時間をかければ……。だが、これを壊す利点はない。私たちの旅に関係ないよ。中の魔術師にも用はない。『ある』とわかれば、結界の外を回って先に行こう」
「気にならない?」
「なるかどうかはあまり意味がないと思うが」
「気にならない?」
私の問いかけにアランは間を取った。
「……なる。相手がどのような意図で認識結界を張っているかはわからないが、この規模で結界を張れるなら相当な魔術師だ。魔術師として会って話を聞きたい気持ちはある」
「じゃあ入ろうよ」
「入る? 破壊するつもりなのか?」
「ほら」
私は結界の中に手を入れる。腕の先が消えた。
「私、なんかこの人と気が合いそう」
なんとなく、私が先に見つけることができた理由があるような気がした。私とこの魔術師には何か近いものがあるような。
「そうか……。まあ君がいいのなら」






