第十話 最初の弟子 ⑨
場面が変わる。
また私の知らない部屋だ。
アランとマリアがテーブル越しに向き合って座っている。お互い深刻そうな顔をしている。マリアの髪が前より伸びて大人びている。時間が進んでいるようだ。
「エチカ師匠、いなくなっちゃったね」
「逃げ足が速いというか、これはもう準備していた気がする」
「どうしてこんなことに」
「私たちでは解決できないことがあったんだろう。だから言わなかった。そういうところは手抜かりないからそう考えるしかない」
「でも私たちを置いていくなんてあんまりじゃない?」
「そうだな、それは少し不思議だ」
机の上に封筒が置かれている。
アランが封筒を手に取り、中身を取り出す。
「『急用ができた。私は戻らない。家は譲る。二人とも元気で』、か」
アランがエチカの書き置きとおぼしきメモを読み上げた。
「本当かな」
「本当だろう。師匠は冗談は言うが嘘は言わない。あんたたちなら解決できる範囲だ、とでも言いたいのかもしれない」
「何が……」
「端的に言えば権力争いに負けた、ということだろう。貴族院側についていた魔術師協会の重鎮がいくらか失脚した。どちらかと言えばエチカ師匠は魔術師協会では力が弱い方だったからそれに巻き込まれたのだろう。こればかりは私たちにはどうしようもない」
「私たちはどうなるの?」
「今のところエチカ師匠ではなく、私の個人としての研究室は残されているようだが、それが今後も維持される保証はどこにもない」
「そんなあ」
「このような些末な争い事に時間を費やすなど同じ魔術師として嘆かわしいが、現実として受け入れるしかない。私は私で研究室が残るように努力はしてみるつもりだが、どうかな。だから、マリア、君は私から離れた方がいい」
「離れる!? なんで!?」
テーブルを両手で叩いてマリアが立ち上がる。
「魔術師協会がエチカ師匠に何らかの責を負わせるつもりだったのなら、弟子である私までは影響するだろう。それより先はわからないが、私の資格が剥奪される前に君との師弟関係を解消すれば、君はここに残ることができるはずだ」
「何言ってるのアラン! 私たち、もう三年も一緒にいるのに!」
「君なら他に行く当てもあるだろう。私のことよりこの先の人生のことを考えた方がいい。才能を無駄にする必要はない」
「馬鹿にしないで! アランだって、アランだって!」
「私は君のためを思って言っている」
「それくらいわかってるわよ馬鹿!」
もう一度テーブルを叩いてマリアは部屋から出て行った。






