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ゲルダ・アルグラント


 精神干渉魔法――幾つもある魔法の中でも、希少かつ特殊な魔法として知られている。

 その理由は、難易度の高さにある。

 人の感情を増幅させるだけであれば使えない事はない。ただ、対象の価値観や定着した記憶に干渉する事は、精神干渉魔法への適性が高い者でも困難である。

 常人には感情の増幅くらいしか――それも感情を少し大きくする程度しか行使できないのだ。

 それ以上の難易度となると魔道具で行使する場合がほとんどだろう。しかし皆知っての通り、魔道具に魔法の効果を付与できるのは、その魔法を扱える者だけである。また、精神干渉魔法を扱える者が少ないと言う事は、精神干渉魔法の魔道具も少ないと言う事でもある。

 故に、その魔法を好んで学ぶ者も少なく、知られている事も少ないのだ。

 精神干渉魔法は独裁者を生みかねない危険な魔法だ。禁止されていないのは難易度があまりに高いので恐れるに足りないと判断されたためだろう。見積もりが甘いと言わざるを得ない。 

 ――その魔法が、私利私欲のために使われない事を願う。



「はぁ……やっと書類が片付いた」


 最後に書き終えた書類を卓の左端へ置くと、レイネは背もたれに上体を預ける。

 当主としての執務にまだ慣れていない事や先の襲撃事件で書類が増えた事も相まって、レイネは執務に悪戦苦闘していた。その上、ジンクを厄介な襲撃者から守るための対策も考えなければならないのだから、溜息も吐きたくなる。

「ミルは大丈夫かしら……」と背を預けたまま呟くと、向かい側の扉からノックの音が響いた。

 入るよう伝えると、「失礼します」と長年アルグラント家に仕えている白髪の執事長が入ってくる。


「レイネ様。1時間後には、ゲルダ様がいらっしゃるとの事です」

「そう。思ったより早いわね」

「襲撃の件を憂慮しておられるようで、強力な魔道具を準備しておられます」


 レイネの叔父――ゲルダ・アルグラントは国軍の参謀を務めており、国の治安維持や国境の監視などを将軍と共に仕切っている。

 アルグラント家からは多くの優秀な魔法使いが輩出されているが、ゲルダの場合は軍の指揮に優れていた事もあって、参謀に抜擢(ばってき)されたのだ。


「叔父様がお越しになるのだから、もてなす準備をしないとね」

「既に準備に取り掛かっているところです」

「流石ね、シェイド。助かるわ」

「恐縮です。長年勤めておりますので」


 謙虚に頭を下げるジェイドに、レイネは微笑んだ。



 馬車に乗り別荘へ向かう参謀は、向かい側の席にある人の胴体程の直方体の魔道具を暫し見つめると、自身の右手人差し指に嵌められた指輪型の魔道具に視線を移した。

 ここ2年間、彼――ゲルダ・アルグラントの立場は目まぐるしく変化していった。

 アルグラント家で育っただけあって魔法に秀でていたが、レイネの両親程の才はなく、将軍になる可能性は低いのではないかと噂されていた。しかし、増加傾向にあった国内の犯罪数や被害者数を抑える事に寄与し、周囲からの信頼を勝ち取った事が評価された事もあり、参謀に昇進したのである。


「レイネは利口だな。学校に通って友人と楽しく親睦を深めるような年頃だというのに」

「おっしゃる通りでございます。後1か月も経たない内に執務にも慣れる事でしょう、とジェイドも申しておりました」


 嬉しさを言葉に滲ませながら、隣に座る執事が答えた。


「そうか……思っていたよりも大丈夫そうだな」


 ゲルダは優秀な執事からの言伝に頬を緩ませると、黙考するように顎に手を当て俯く。


「襲撃者は、あの”銀の魔法剣士„とその一派か……もう少し、魔道具――それに加えて増援も要請したかったが……」


 原則、国家兵器に指定された魔道具を使用したい場合や増援に向かいたい場合、将軍を通して国王陛下から許可を得なけらばならない。幾ら魔力の多いジンクを守るためとは言え、1人の貴族を守るために各区画の戦力をこれ以上手薄にするわけにはいかないため、ゲルダと数名の兵士しか増援を許されなかった。


「……まぁ、魔道具の許可は得られたのだから良しとしよう」


 今回使用を許された魔道具は、戦場で使用される機会は少ないとされている特殊な物だ。国王陛下が許可を許したのはそのためだろう。


 考えを巡らせながら窓を見やると、先程まで見えていた自然豊かな草原地帯から一変し、連立した建築物や街を行き交う領民の姿が見えた。


「――ゲルダ様、直に別荘に到着します」

「そうか。――可愛い(めい)の頑張りに、私も応えないとね」


 ゲルダはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。


 








 

 





  


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