記憶の手探り2
僕は食事の席に着き、早速本の内容について尋ねる事にした。
「ねぇ、レイネ。いくつか聞きたい事があるんだけど」
「聞きたい事って、その本の事?」
彼女は僕が卓に置いた本へ視線を移した。
「うん。それもあるけど」
僕がそう返すと、彼女は訝し気に本を指差す。
「その前にジンク。食卓に本を置くのはマナー違反よ」
「えっ? そうなの?」
レイネは僕の返事に苦笑した。
「まぁ、良いわ。それで、聞きたい事って?」
「レイネは僕が貴族だったって話してたけど、僕は養子ってわけじゃないよね?」
貴族は平民から優秀な人を養子として迎え入れる事もあるらしい。もし僕が養子であるならば、僕のこの感覚にも少しは納得できる。彼女の口振りからしてその可能性は低いだろうけど、その点をはっきりさせたいから念のため聞いてみた。
すると意外な事に、彼女は虚を突かれたように目を剥き、目を背けた。
「……そう言えば、言ってなかったわね。――あなたは、4年前に養子として引き取られたの」
……養子、か。――思ったより、気持ちは落ち着いている。
彼女の言葉が少し詰まっているように聞こえた。言い辛くて、敢えて言っていなかったのだろう。
「その……話さない方が良いかしら?」
「……大丈夫、話して。少し複雑ではあるけど、知りたいし」
記憶を思い出す手掛かりになるかも知れないし、血の繋がりがある両親について知っておきたい。
「4年前――あなたも今は16歳だから、12歳くらいの時ね。
その時にあなたとウィルダ伯爵家の御夫妻が出会ったんだけど、その更に1年前までここの国――ロックファリア王国は不況に苦しんでいたの。ウィルダ伯爵領は国内でも孤児院が多くて、教育や領民の保護に力を入れた領として知られているんだけど、それでも当時は不況の影響で、飢餓で亡くなる領民が増えていたそうよ。
ウィルダ伯爵家は、人手を増やすなり領民に支援金を配るなりして何とか領の危機を脱したのだけど、不況の影響は1年経っても残っていたの。
そんな時、飢餓に苦しみ路頭に迷っていたあなたは、ウィルダ伯爵家の邸宅に訪れた」
「――実の両親は、その時にはいなかったの?」
率直な疑問に、レイネは顔を顰めた。
「――あなたの両親は…………近くで倒れてるのを見つけたそうだけど……
――亡くなっていたと聞いたわ」
……亡くなった? 僕の実の両親が?
彼女の反応からして、何かあるなと覚悟はしていたけど……
もう、実の両親と会う事は叶わない――親と過ごした記憶を思い出せないけど、胸が沈んでいくような感覚がした。
彼女は不安気に僕を見ている。
確かに、悲しさはあるけど、大丈夫。だから、彼女に安心させるように笑いかけた。
「……でも、僕を慕ってくれる両親がいるんだよね? だから、大丈夫だよ。きっと、亡くなった父さんも母さんも安心してると思う」
「そう……そうね。きっと、そうだわ」
彼女は安心したかと思えば、思い出したように続ける。
「ああ――それで話の続きだけど、あなたはそのままウィルダ家で一時的に保護される事になったの。だけど、あなたに魔力がある事が分かったから、ウィルダ家の養子としてあなたを迎える事にしたそうよ」
確か、魔力を持つ者は平民では稀で、魔力を持つ平民は大抵何らかの形で貴族の一員になるか貴族の後ろ盾を得ている、と本に記されていた。魔力を持つ人は珍しいから、その人にどのような危険があるかは大体想像できる。自分の身を守るために貴族に取り入るのが定石なのだろう。
「どうして僕に魔力がある事が分かったの?」
「それは……3キロくらいの距離をあなた1人が親2人を担いで歩いていたそうよ」
「――身体強化魔法……」
「ええ。親の足が引きずられたような跡が見つかったから、その可能性を考えた領主様はあなたに魔力鑑定を受けさせる事にしたのね。魔力がある平民、特に子供は早い内に貴族が保護しておかないと、魔力を悪用されかねないから」
「なるほど」
恐らく先に親が力尽きていたのは、僕に優先して食事を摂らせていたからだろう。そして親を諦めきれなかった僕は、ウィルダ伯爵家の邸宅へ助けを求めたに行ったのか。
……いや、まだレイネの事を信じ切るのは早い。レイネの話を聞いて腑に落ちるところがあったし、具体的だったから思わず感情移入してしまった。
まだ聞くべき事がある。
「話が変わるけど、独立魔法騎士団って知ってる?」
「ええ。知ってるわよ。世界中に支部を持つ、どの国にも所属しない精鋭揃いの団体ね」
夢で聞いた団体は実在していたのか。
「精鋭揃いって、そんなに強いの?」
「それはもう、皆が中隊長クラス以上の実力者で、中でも各隊を仕切る隊長は英雄クラスだと言われているくらいよ。世界各国で人助けをしているから世界中でも人気が高いわ」
彼女は嬉々として答えた。
「嬉しそうだね」
「ええ。私も好きだもの。誰だって一度は憧れた事があるんじゃないかしら?」
「もしかして、幼い頃は独立魔法騎士団を目指していたの?」
「そうよ。次期当主に私が有力視されていなければ、目指していたでしょうね」
次期当主であるとは言っても、当主になる事は確定ではなく暫定なのかも知れない。”有力視”と言うのはそう言う事だろう。……少なくともレイネにとっては。
何やら、彼女の後ろに控えるメイド2人が渋い表情をしていた。
「ミルが次期当主を代わってくれないかしら……」
「何をおっしゃいますか。ミルお嬢様が優秀な才覚をお持ちでも、長女であるレイネ様が当主の座を継ぐべきだと言う声が多いのですよ?」
やや憂鬱な調子で呟く彼女に、側で控えていた眼鏡をかけたメイドが諭す様に言った。
「……分かっているわ、シルベル」
貴族も平民も、年上は大変なんだな……。
「僕と一緒に独立魔法騎士団に入ろうって約束してたりする?」
「……? ――そうね…………したような気もするし、してないような気もするわ。ごめんなさい。あまり覚えてないの。小さい頃だった気はするのだけど」
苦笑しながら彼女はそう答えた。
……あの夢が過去にあった事なのかは、結局分からないか。
「記憶を思い出すために色々聞いていたのよね? 忙しくて時間が取れなくて、ごめんなさい。余裕が出てきたら、また協力するから」
……まだ、真相までの道のりは続きそうだ。
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