55
ディリアンは独学では上手く発揮できていなかったその実力を、ローレンスの指導により開花させつつあった。
彼の話を聞くに、レッドグレイヴ公爵家では家庭教師による魔法学習は基礎のみで終わってしまうらしい。それから先は独学で学べ──それがこの家の方針だった。
要は最低限の教育はするが、あとは自分の力で跡取りの座を掴み取れってことなのだろうな。跡目という目的をぶら下げておけば自発的に行動するだろうという驕りが、そこには見える。
しかし……。そのような各自の素養に任せきりの教育方針だと、当然のことではあるが子どもたちの成長にはばらつきが出てしまう。
メリアンは学びよりも享楽的なことに夢中になり、エイプリルは自身の興味のある分野の研究にだけ没頭した。リアナは天武の才に頼りきりで、ディリアンは真面目に学びはしたが独学では伸び悩んでいた。
──人には向き不向きというものがある。
ディリアンは独学向きではなく、人に教えを乞うことで成長するタイプだったらしい。ローレンスからの教えを受けたディリアンは、あっという間に己の殻を破りみるみるうちに成長していった。
「では、参ります!」
ディリアンが足に風魔法を纏わせ加速をつけて駆け出し、ローレンスに炎の魔法で生み出した剣を振り下ろす。ローレンスはその斬撃を僅かな身体の動きだけで躱すと、複数の氷の刃をディリアンに放った。
ディリアンは冷静な様子で氷の刃を剣で弾き飛ばし、後ろに跳びすさってローレンスと距離を取る。そして、剣を正眼に構え直した。
「今度はこちらからいきましょう」
ローレンスはそう告げると、すっと片手を上に挙げる。
ディリアンはそんなローレンスの挙動を目にし、表情に緊張を走らせた。
「──雷鳴」
ローレンスが無詠唱で中位の攻撃魔法を放つ。
眩しい稲光が周囲を照らし、間を置かずに無数の雷がディリアンの頭上に降りかかった。
「くっ!」
ディリアンは飛来する雷を防ごうと、迅速に防護魔法を展開する。彼の周囲には透明な亀の甲羅のような防護壁が展開され、それはなかなかに堅牢に見えた。
甲羅に雷が衝突し、ギャリギャリと嫌な音を立てる。
雷のいくつかは弾かれ霧散したが、残りは防護壁を貫通しディリアンに向かう。ディリアンはそれを予測していたらしく、防護魔法をふたたび発動してそれを防ごうとした。
「がぁっ……!」
──が。新たな防護壁すら貫通した雷をディリアンは背に受けてしまい、苦しそうな呻き声を上げた。防護壁のおかげで威力が落ちているとはいえ、これはかなり痛そうだ。あとで治癒魔法で治せるとはいえ、ローレンスも容赦がないなぁ。
……しかし、ディリアンも頑張ってるな。かなりの手加減をされているとはいえ、ちゃんとローレンスとやり合えている。
リアナだって、ローレンスには赤子の手を捻るように簡単にやられたのだ。そのリアナに劣っていたディリアンがここまでローレンスと戦えているのだから、この成長ぶりはかなり上出来なのではないだろうか。
「ディリアン様、息が上がっておりますよ。もうお疲れなのでしょうか」
ローレンスがひらひらと片手を振って、よろめくディリアンを挑発する。その表情は余裕たっぷりというものだ。まぁ、実際に余裕だろうしなぁ。
少し前のディリアンであれば、その挑発に乗って迂闊なことをしたかもしれないが……。
「ローレンス卿、見間違いではないですか? 私はまだ戦えますよ」
ディリアンは深呼吸をしてから、不適な笑みを浮かべてそう言ったのだ。
そして炎の剣をローレンスに投擲するのと同時に、風魔法で加速をつけてローレンスへ駆けた。
投擲された剣をローレンスは面倒くさそうに片手で弾き、ディリアンに視線をやる。
剣を投げつけることで気を引き、相手の隙を作ろうとする。その工夫をしようとする姿勢はとてもいいぞ。格上と戦う時は特に、工夫はとても大事だもんな。
俺は腕組みをしながら、後方師匠面でそんなことを考える。
ディリアンは加速のままローレンスの背後に回り込み、いつの間にか新たに生み出していた炎の剣でローレンスを斬りつけようとした。しかし……。
「ぐっ……!」
その動きは完全に読まれており、ディリアンはローレンスの回し蹴りを腹に受けてその場に倒れ込んでしまったのだった。




