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ローレンスのディリアンへの指導は、話がついたその週に開始された。
指導は週に四回。指導が行われる場所はローレンスによってランダムに指定され、音や気配を消す結界を張ってから行われる。俺とローレンスは一緒にその日の場所まで一緒に向かうが、ディリアンに関しては現地集合。
レッドグレイヴ公爵家の者たちに勘づかれでもしたら面倒だというローレンスの配慮で、こういう形式になったわけだ。
俺もディリアンとともに修練を開始したわけだが、ローレンスの指導は想像していたより厳しいものだった。
ローレンスは昔から自分に厳しい男だったが、『獅子王』の死後その傾向はさらに強まったように思える。
その厳しさが指導の際には他人に向けていかんなく発揮されることとなり、その結果……。
──一週間も経つ頃には、俺とディリアンは息も絶え絶えになっていたのだ。
とはいえ、俺はか弱い『イーディス』である。よって、俺に対する指導はディリアンに対するものより格段に優しいものとなっていた。
俺がローレンスに課せられたのは、基礎体力作りとたくさん食べること。そして、魔力操作の訓練だった。魔力操作は現状の『イーディス』の体力でも、効率よく魔法を使うための訓練だな。
獅子王時代は手足のように魔法を扱えた俺は、魔力操作が雑なところがある。その『雑』の部分は『イーディス』の体力を相当に奪うはずなので、まずは繊細な魔力操作を身につけようという話になったのだ。
実のところ……。魔力操作の訓練より、『基礎体力作りとたくさん食べる』のほうが俺にはつらい。『イーディス』の体は魔法の補助なしの時は少しの距離を走っただけでも激しく息切れをするし、食べ過ぎるとそれだけで疲弊してしまう。
だけどそれらのことは、『イーディス』を人並みの体力にするために必要だとローレンスには力説された。
──前世の記憶に目覚めてしばらく経つが、『イーディス』の体はままならないままだ。
焦っても仕方がないが……。せめてふつうの少女並みの体力をつけないと、ローレンスに抱えられて旅をするはめになりそうで恐ろしい。それだけは絶対に嫌だからな!
そんなふうに魔力操作の訓練と体力作りをしているうちに、あれよあれよと一ヶ月が経過したわけだが。
その一ヶ月の間、ローレンスは俺の魔力の挙動をつぶさに観察していた。
……あまりにもじっくりと見ているものだから、最初はいつもの変態行為と誤解したのはご愛嬌だ。こればかりはローレンスの日頃の行いが悪い。
──そんなローレンスいわく。
『イーディス』という脆弱な器に『獅子王』の巨大な魔力が据えられているせいで、俺が魔法を行使する際には本来かかる以上の負担を体が受けているそうだ。それは中位以上の魔法に限らず、下位魔法の行使でもそうなのだと。
加えて魔力操作が雑だったゆえに、負担の逃げ場がなおさらなかった……と。
魔力操作に関しては訓練で改善されたのでその分の負担は減るだろうが、根本的な器の問題は解決していない。
『何年もこの状態に気づかず魔法を使い続けていたら、拭いきれない負担が蓄積し内側から破壊されて死に至っていたかもしれません』……ローレンスは渋い顔をしてそんなふうに俺に告げた。
さらについでとばかりに『そんな状態で上位魔法を使うなんて言語道断です!』……と死竜退治の時のことを蒸し返されてちくちく言われたりもした。
ローレンスは、時々とてもしつこい。
ローレンス指導の上での修練をはじめてから、さらに二ヶ月が経過した。
現在の俺は巨大すぎる魔力の取り扱いの試行錯誤をしており、その試みは少しずつ実を結んでいる。
今までの俺は『獅子王の魔力』という濁流の大河を小さな蛇口で管理しているような状況だった。それでは、体に負担がかかって当然だ。
しかしながら、蛇口である『イーディス』の体を前世の自分のような使い勝手に変えるのは現状不可能だ。ならばその蛇口に適した量の魔力を毎回取り出せるよう、魔力管理を徹底していくしかない。それを行うために、俺はさらに高度な魔力操作の訓練に邁進した。
その甲斐あって下位から中位の魔法に関しては格段に体への負担が減っているとの、ローレンスからのお墨付きも出たのだ。
……上位魔法に関しては、行使の許可すら出ていないが。まぁ、これに関しては仕方がないだろう。負担が違いすぎるからなぁ。
体力作りのほうはというと……ぼちぼちという感じだ。
魔法の補助なしでも階段であまり息切れしなくなったし、多少は筋肉もついた……と思う。たぶん、おそらく、きっと。
日々の食事の量は、少しずつではあるが増やせている。
以前よりやっている魔物の肉を食べて体内の魔力回路を整えることも続けているので、現在の俺は通常の食事と合わせて一日四回の食事をしている。一食一食の量は同年代の女性と比べるとかなり少ないのだが、十八歳まで食事をろくに摂っていなかった俺からすると腹がはち切れそうになる量だ。……続けていたら胃が広がるとローレンスは言っているけど、本当かなぁ。
生まれ持ったものだったので深く気にしてはいなかったが、前世の俺は体の作りが人とは違っていたのだろう。どれだけ魔法を行使しても疲労など一切感じず、ひどい時には三日三晩の戦いに明け暮れていたのだから。
……まぁ、そのあとはさすがに寝不足のほうでダウンしてしまったのだが。その時もローレンスに怒られたなぁ。
前世の体と、今世の体。そのギャップはかなり大きい。そのギャップをどれだけ埋めていけるかは、終生の課題になりそうだ。
とにかく、俺の修練の進捗はそんなところだな。
──さて、この修練の主役は俺ではなくディリアンだ。
ローレンスと模擬戦をしているディリアンに、俺は視線をやる。
今日の俺たちは、屋敷から離れたところにあるいにしえの闘技場跡で訓練をしていた。
闘技場の真ん中で魔法で生み出した剣を携えてローレンスと向き合っているディリアンの姿は……二ヶ月前と比べものにならないくらいに落ち着き払ったものだった。




