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6振り、強いのは来ないでくれ

1日経って。適度に夜を抑えた俺たちは森にいた。


「さて、まずは動けないヤツを殺すか」


俺はその辺にいた兎を捕まえてユーカの前に出す。兎を殺さない俺を見てユーカは不思議そうにしているが、


「ほら。この兎はユーカが殺さないと。経験値にならないだろ」


「え!?私が殺しちゃうの!?」


「ああ。まだ生き物を殺すって所から抵抗があるだろ?そういう倫理観の辺りから攻略していかないと、これから先戦えない」


「そ、それはそうなんだけど」


倫理観というのは非常に大きな足かせとなる。それは、俺がこれまで戦ってきて分かってることだ。生物の生き死にに割とドライな俺でも、一瞬ゴブリンなどの人型モンスターに攻撃するのは気が引けた。ユーカが俺ほどドライだとも思えないし、ここで生物を殺すことになれてもらいたい。


「まずはやってみろ。これが出来なきゃレベルアップなんて出来ないから」


「わ、分かった。……うぅぅぅぅ」


手に持ったナイフを兎へゆっくり近づけていく。できるだけ顔をそらして見ないようにしているな。そういうことをすると、余計に手から伝わる感触を強く感じてしまったりするんだが…………これも経験だろう。


「え、えい!」


弱い力で突き出されるナイフ。目をそらしているため狙いが安定しない。俺は兎に当たるように軌道を修正して、


グチュ!

「っ!?」


手から伝わる感覚にユーカは顔を引きつらせる。……ん~。この表情から考えて、自分でモンスターを倒せるようになるまでには時間がかかるかもな。じっくり教育した方が良さそうだ。


「ほら。狙いが定まってないからまだ殺せてないぞ。ちゃんと首とか頭を狙え」


「う、うぅぅぅぅ。分かってるけどぉぉぉぉ」


持ったナイフをぷるぷると震わせるユーカ。一瞬兎へ目をやってすぐに顔をそらした。自分の指した場所から血を流す兎を見て色々と感じたんだろうな。


「ほら。ちゃんとやれ。もう1回だ」


「は、はいぃ……」


消え入りそうな声を出しながらナイフを突き出すユーカ。この日、1時間ほどかけて兎を殺した。1つレベルが上がったらしいので、本日はこれで終了だ。ユーカに冒険者ギルドでの手続きを教えて、その日のお世話は終了。メンタルをやられたユーカを宿に戻し、俺は狩りを続けるのであった。

その日の夜。


「カシィ!ダメ!ダメなの!もっと!もっとぉ!!」


「お、おい!?これ以上やったら明日に響くだろ!」


メンタルを保つためなのか、今まで以上にユーカは積極的だった。こういう快楽に溺れることで一時的に辛いことを忘れるって事は出来るからな。どっかの薬をやるヤツみたいなやばさだから、ここも改善しなければいけないだろう。……とは言っても、これは俺への報酬も含まれてるわけだしな。禁欲はあり得ないよなぁ。

今後どうするかは悩みどころだ。とりあえず今は、積極的なユーカを早く眠らせてやるとしよう。


「んん~~~っ////」



それで次の日。案の定起きるのは遅れたが、今日は心を鬼にしてユーカを森に連れて行く。今日は捕獲したモンスターを俺の補助なしで殺してもらう。昨日は狙いを俺がある程度補助していたが、今日はしっかりとモンスターを見ないと攻撃できないわけだ。


「え、えい!」


ナイフが突き出される。最初は目を閉じて空振り、次に一瞬目を開けて躊躇し、覚悟を決めて振り下ろせば浅い傷が。何度も躊躇しながらナイフを突き出し、今度は30分ほどで殺し終わった。

それから解体を教え、何度かユーカが吐きそうになりながらも作業を終える。そして夜はお盛んに。などという生活が暫く続いた。

そして、そんな生活が1週間ほど続いた頃。


「え、えい!」


「グギャァ!?」


ゴブリンの喉にナイフを突き立てるユーカ。そして、そのゴブリンの上には宝箱が。


「おめでとう。これでゴブリンくらいなら1人で相手できるようになったな。解体は後にして宝箱を開けてみろ」


「う、うん」


ユーカが宝箱へ手を伸ばす。そして、


「……あっ」


小さく声を漏らした。言葉は発しないが、何があったのかは俺にも想像できる。おそらく、


「レベル5になったか。これでお別れだな」


「っ!」


顔を上げ、俺の瞳を見る。それから切なげな表情を浮かべた。俺だってユーカへは情が湧いているし、別れたくないという気持ちも湧いている。だが、ユーカの存在が足かせとなっていることも事実なのだ。2人分の支出が、1日の収入を微妙に上回っている。今のところ俺の財布は日に日に薄くなっている状況なのだ。このままでは破産してしまう。


「ま、待ってよ!まだ私は!」

「ブモオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!」


ユーカの言葉の途中で叫び声。すぐに俺は声が聞こえた方向を見て武器を構える。ユーカも慌てた様子でナイフを構えた。

俺たちの目線の先にいるのは角を生やした大柄のモンスター。人のような身体を持ってはいるが、頭は牛である。ミノタウロスだな。


「ユーカ!。逃げろ。俺が相手をする」


「っ!?わ、分かった!」


ユーカを逃がす。ついでに俺も逃げたいところだが、


ブオンッ!

「うおぁ!?速っ!?」


目にもとまらぬ速さで俺の前に現れたミノタウロスは、手に持った斧を振り下ろしてくる。動きの速度は俺より速いな。

だが、俺とて『機動力』特化だ。斧を避けるくらいはやってみせる!


ガッ!

「いっ!?」


斧は避けた。が、斧が地面にぶつかった後、衝撃波が襲ってきた。ついでに、地面の石やら土やらが舞い上がって俺の身体にぶつかる。

う、嘘だろ。攻撃の余波だけでダメージくらうとか、どれだけ攻撃力高いんだよ!しかも俺に迫ってきたときの速度は明らかに俺の数倍はあったからな。特化の俺より速いってチートだろ!勝てるわけない!


「ブモオォ!!」


「おっ!危なっ!?」


俺の目の前を通り過ぎる斧。俺はひたすら回避に徹する。時間をかけても勝てるとは思えないが、それでも生き残るために出来るのはこれくらいしかない。ひたすら避け続けることしか、


パキッ!

「っ!?」


ゆっくりと倒れていく俺の身体。何かを踏んで滑ったようだ。素速く後方へローリングして体勢を立て直すが、


「ブモオオォ!!!!」


「ぐっ!」


斧が俺の左手を掠める。血が噴き出したりはしないが、鈍い痛みが残った。左手はもう使い物にならないだろうな。ポーションの類いが飲めたら良いんだが、今はそんな隙すら作れないし。このまま右手1本でさばききるしかないか。

俺がそう考察しながら左手をかばうように身体をひねる。が、ミノタウロスは今までとは少し違う身体の動きを見せて、


「ブモォ!」


「なっ!?」


振った斧を振り上げるようにした俺の手を狙ってきた。さっきからずっと振り下ろしばかりだったのだが、使い方を変えてきたのだ。咄嗟のことに俺も反応が遅れる。どうにか避けたものの隙が出来てしまい、


「ブモオオオォォォォ!!!!」


回避することの出来ない振り下ろし。俺は命だけは助かろうと横に飛ぶ。が、当然大ダメージは受ける。……はずなのだが、


「ブモッ!?」


俺の身体に斧が当たる前にミノタウロスの驚くような声が。顔を上げると、


「カシィ君!大丈夫!?」


「なっ!?ユーカ!?」


逃げたはずのユーカ。彼女が、ミノタウロスの首にナイフを突き立てていた。だが、それでも倒したわけではない。厚い首の皮をほとんどナイフは貫けていないようだ。


「ブモォォォォ!!!!」


「きゃっ!?」


ミノタウロスが腕を振り、ユーカはなぎ払われた。俺はすかさずユーカをキャッチ。


「助かった。が、今度こそ逃げろ。ユーカじゃアレには対応できない!」


「分かってる!でも、私だって頑張ったの!」


俺の腕から地面に降りたユーカはナイフを構えた。その姿は数日前までのひ弱なユーカとは違う。どこか力強さを感じさせた。


「カシィ君が戦ってくれてる間、私は沢山ゴブリンとか倒してきたの!レベルも頑張って上げたから、ちょっとくらいは戦力になるよ!」


「っ!?」


ミノタウロスを見定めながらユーカはそんなことを言う。そう言われてみてみれば、服はかなりボロボロ。激しい戦いの後のようにも見える。まさか、レベルアップするために戦っていたとは。


「……なら、捌くのは俺がやる。ユーカは隙を見て奇襲してくれ」


「分かった!」


こうして俺たちとミノタウロスの戦いは仕切り直される。だが、レベルの上がったユーカが来た今、俺は負ける気がしなかった。

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