4振り、縋り付かないでくれ
「大丈夫か?」
「っ!?……は、はる、かわ、君?」
ゴブリンによって服を破かれ、今にも犯されそうになっていたクラスメイトへ話しかける。恐怖のためか目には涙が浮かんでおり、地面には血ではない液体が漏れていた。
「久しぶりだな。姫崎さん」
「久し、ぶり?」
俺の言葉に首をかしげるのは姫崎由香。成績優秀でスポーツ万能。クラス1、いや、学校1と言われる美少女だ。
美少女が服を破かれほぼ全裸という今の状況は一見興奮するシチュエーションかもしれない。だが、鼻水や涙でぐちょぐちょになった顔を見るとそういう気持ちも失せる。……まあ、そういう顔で余計に興奮するという人もいるかもしれないが。とりあえず俺はそういうタイプではない。
「久しぶりだろ?もうすぐ俺が転移してから1週間経つんだから」
「ふぇ?1週間?」
姫崎さんは困惑した表情を見せる。そろそろ涙も収まってきたようだし、顔を拭いてやろう。
「っ!……あ、ありがとう」
「いや。気にするな。ついでにこれも着ておけ」
鼻水や涙をとれば顔の赤くなった美少女になってしまった。なので、俺の精神安定の意味も込めて俺の予備の服を渡す。所謂アイテムボックスとかに近い袋を村で買って、それに何着か入れておいたのだ。
「え?着るって…………っ///」
俺の服を見て首をかしげる姫崎さん。だが、すぐに自分の格好を見て顔を赤くする。それから、俺の服を奪い去るようにとって木の陰で着替え始めた。
「隠れるのは良いけど、急に飛び出たら危ないぞ。魔物が隠れてるかもしれないから」
「そ、それは分かってるけど!春川君に痴女だって思われたくないの!」
「いや。思わないから」
どんな理由だよ。さっきまで襲われてたんだから、ひどい格好してたって誰も痴女だとは思わねぇよ。
そんな風にあきれつつ、俺は姫崎さんを待つ。
「姫崎さんが着替え終わったら俺は別の所いくからな。早くしてくれよ」
「え!?別の所って、どこ行くの!?」
「さっき悲鳴が聞こえたから、そいつらの所行かないと。死んでたとしても確認だけはとっておきたいからな」
「そ、そう」
「その間姫崎さんは一人になるから、ちゃんと隠れておけよ」
「えぇっ!?」
驚く声。それと共に、着替え途中の姫崎さんが木陰から姿を現す。色々と見えてる状態にもかかわらず、その格好で俺へと迫ってきて、
「やめてよ!私を一人にしないでよ!襲われるかもしれないじゃん!」
「そ、そうは言われてもな。……姫崎さんも襲われてる奴らも、両方同じくクラスメイトだし」
「私は生きてるんだよ!悲鳴上げた子はもう死んじゃってるよ!」
「さっきも言ったけど、死んでたとしても誰が死んだのかは確認しておきたいから」
「だからって私をおいてくの?」
圧強めで問いかけてくる姫崎さん。なんだか非常に面倒くさい。見捨てて良いか?
……あと3回なだめてもダメだったら見捨てることにしよう。
「おいていく。だから隠れてろって言っただろ?隠れたらそう簡単には見つかれないから」:
「でも、もしかしたら見つかるかもしれないじゃん!」
「それは隠れ場所の問題だろ。木の上に上れば、もし見つかったとしても追いつかれるまでに時間が掛かるだろ。ほら。速く着替えてこい」
「やだよ!見捨てないでよ!」
2回なだめた。あと1回でダメだったら終わろう。俺としても見捨てるようなことはしたくないんだけどな。
でも、足手まといを連れていくのも嫌だし。ゴブリンに負けてた所を見るに、まだレベル低いだろ?流石に一緒に行動したくはないな。
「最期の警告だ。速くしろ。あまりにもうるさいようなら邪魔だし、二度とお前を助けには来ない」
「っ!?そ、そんな……」
一転して姫崎さんの表情が曇る。何か言いたいようだけど、唇を噛んで耐えてるな。最後の警告と言ったのは効いたらしい。姫崎さんも見捨てられるのは嫌だよな。
「着替えてくるから。……ぜ、絶対に助けに来てね」
「ああ。もちろんだ。確認が取れ次第すぐに戻る」
「お、お願いだからね」
そこまで言って、また姫崎さんは着替えを再開した。もう隠れる気はないらしく、俺の前で堂々と着替えてらっしゃる。
やめて下さい。俺の精神がダメージを受けています!!
「は、はい。お、終わった、よ?」
顔を真っ赤にしながら告げる姫崎さん。顔を背けてる俺も、きっと顔を赤くしていることだろう。
「ど、どこに隠れる?木の上に登れないとかだったら、俺が連れて行っても良いけど」
「ほ、本当に?じゃ、じゃあ頼めるかな」
お互いドギマギしつつ、会話を行う。木に登りたいらしいので、俺は姫崎さんに近づき、
「ちょっと失礼」
「きゃっ!?」
所謂お姫様抱っこをして、木の上に跳んだ。ステータスが上がったお陰かは分からないが、ジャンプするだけで木の上に行けるんだよな。異世界凄い。なぜか固まってる姫崎さんを枝の上に降ろした俺は、そのままクラスメイトを探すために跳んだ。当然ではあるが、すでに俺が行ったときには死んでいたが。
周りにいたオオカミは殺して仇を討っておく。オオカミに食われて色々と失ってるから、クラスメイトがゾンビになる事はないだろう。
【姫崎由香視点】
春川君がいなくなってから数十秒後。
「……は、春川君に、お姫様抱っこされちゃった?」
あまりのことにショートしてた。春川君、普段は地味だけどたまにイケメンなんだよね。こういうことされると、胸がドキドキしちゃうよ。私の着替えを見て恥ずかしがってたし、私のことを気になってたりするのかな?
ていうか、考えてみると春川君凄かったよね。ゴブリンを一瞬で倒しちゃったし。クラスメイトはあんなに時間が掛かってたのに。……そういえば、もうすぐこっちに来て1週間になるとか言ってたっけ?明らかに私が転移するまでの間とは期間が違うけど、それが関係してたりするのかな。後で詳しく聞いてみよう。助けに来てくれてるって行ってたし。
あそこでお姫様抱っこして、あの子達の元になんか向かわずに安全な場所まで運んでくれたら、もっと格好良かったんだけどなぁ。




